5.主要謎パ~機の概要

 最後に、「謎パ~機」と呼ばれる主要なマシンについて、簡単に解説しておくことにする。各マシンのスペックについては、別紙スペック一覧をご参考にして頂きたい。

ATARI Portfolio

 ATARI 社が 1989 年に発売した、パームトップパソコンの往年の名機。このマシンは、ATARI 社が自社で開発したものではなく、英国 DIP 社が開発したも のを Atari 社に OEM 供給した製品であった。IBM PC 互換アーキテクチャを採用し、OS も MS-DOS と互換性があったが、液晶画面の仕様が特殊であった ため、IBM PC 用ソフトウエアがそのまま動作するというわけではなかった。ジェームズ・キャメロン監督の SF 映画「ターミネーター2」では、この ATARI Portfolio が、銀行の キャッシュディスペンサーをハックする場面で用いられている。

Poqet Computer Poqet PC

 Poqet Computer Corporation が 1989 年に発売したパームトップパソコン。 IBM PC/XT 互換アーキテクチャを採用しており、タッチタイピングが可能なキーボードや、CGA の液晶画面、PCMCIA Type-I スロットの採用等、その後のパームトップパソコンの基本となるスペックを採用したパームトップパソコンの原器とも言える製品である。Poqet Computer Corporation はその後 Fujitsu Personal System に買収され、Poqet PC のノウハウは、富士通のオアシスポケットに踏襲されることになった。

SHARP PC-3000

 SHARP が 1991 年に発売したパームトップパソコン。SHARP 社製であるが、英語版しかリリースされなかったため、日本での知名度は低い。このマシンは、本来 ATARI Portfolio の後継機種、Portfolio2 として発売される予定だったものである。IBM PC 互換アーキテクチャを採用しており、OS には MS-DOS Ver 3.3 を ROM で内蔵していた。この製品は、見やすい CGA 液晶ディスプレイとタッチタイピングが可能なキーボードを備えた、品質の高いマシンである。

Hewlett Packard 95LX

 Hewlett Packard が 1991 年 5 月に発売した、記念すべきパームトップパソコン。CPU に V20H(5.37MHz)を使用した IBM PC/XT 互換のマシンである。PCMCIA Type-I カードスロットを1基搭載している。MDA コンパチブルの液晶画面を搭載し、OS には、MS-DOS Ver 3.22を採用していた。このマシンは、英語版として販売されたが、日本語でメモを取ることが可能なフリーソフトの登場により、日本でも数多くのマニアに愛用された。

・Hewlett Packard 100LX

 Hewlett Packard が 1993 年 5 月に発売した、95LX の後継機種。HP95LX では、液晶画面がMDA 互換であったため、CGA 画面を対象とした多くの IBM PC 用ソフトウエアが動作しなかった。これに対して、HP100LX では、液晶画面に 640 x 200 ドットの CGA 画面を採用した。これにより、グラフィックスの表示に互換性が高まり、市販されている IBM PC 互換機用のソフトウエアが動作するようになった。CPU には 80C186(7.91MHz)が用いられた。PC カードスロットが PCMCIAVer 2.0 となったため、メモリカード以外にも、モデムカードをはじめ、さまざまな PC カードが使用できるようになった。また、内蔵の PIM が大幅に機能強化され、システムマネージャと呼ばれる内蔵プログラム管理 OS上で、数多くのアプリケーションソフトが GUI 感覚で使用できるようになった。オカヤシステムウエアからは、日本語化キットも発売され、HP100LX は日本でも非常にメジャーなパームトップパソコンとしての地位を確立した。

・Hewlett Packard 200LX

 Hewlett Packard が 1994 年 11 月に発売した、HP100LX の後継機種。基本的な構成は、HP100LX と同等であったが、搭載 ROM 容量が増加し、内蔵アプリケーションソフトも強化された。HP200LX は、その完成度の高さから、日本の代表的なパームトップパソコンとして長期にわたって支持され続けたが、1999年11月をもって惜しまれつつ生産が終了した。

Hewlett Packard HP1000CX

 HP100LX をベースとし、Hewlett Packard 製パームトップの特徴であるシステムマネージャと内蔵 PIM アプリケーションを総て取り除いた極めてピュアな DOS マシンである。HP100LXに見られる内蔵アプリケーション起動用のキーが、1000CX では通常の記号キーに変更されている。内蔵メモリは 1MB である。

Instant Tech PTV-30

 1993 年に、香港 Group Sense Limited 社から、Instant Tech ブランドで発売されたパームトップパソコン。PTP-20 とは、兄弟関係にある。PTV-30 は、CPU に V30(7.16MHz)を使用した、極めてオーソドックスな作りの製品であった。スピード的には、あまり高速ではなかったが、IBM PC との互換性は高く、また PCMCIA 拡張スロットも2基実装されていたため、拡張性にも優れていた。フリーソフトウエアによる日本語化も容易で、扱いやすいマシンであった。PC WAVE 1994 年 9 月号で、アストロビスタ氏が同マシンを紹介している。謎パ~機の古典的な製品であるとも言える。

Instant Tech PTP-20

 PTV-30 と同じく、香港 Group Sense Limited 社から、Instant Tech ブランドで発売されたパームトップパソコン。このマシンは、PTV-30 と性格を異にしており、Hewlett Packard のパームトップを意識したデザインを採用していた。PTV-30 が携帯性よりも拡張性を重視したのに対して、PTP-20 は、小型軽量を目指した設計であった。CPU に V20(14MHz)を採用していたこともあり、PTV-30 よりも動作は高速であった。日本でも通信販売で入手することができたが、残念ながら知名度は非常に低かった。

Lexicomp LC-8620

 Hewlett Packard 社製の 1.3 インチ 40 MB HDD、Kittyhawk を搭載した異色パームトップパソコン。台湾 Lexicomp 社が製造したもので、1993 年末頃から市場に出現しはじめた。このマシンは、HDD を搭載したパームトップ機としてもユニークな存在であったが、CPU に Chips & Technology 社製の 16 ビット CPU、F8680A(7 / 14 MHz)を使用している点でも特徴的であった。F8680A は、Intel の 8086 互換CPUであるが、処理速度的には 80286 相当の実力を持っている。当時は、ストレージデバイスとしてのフラッシュメモリーカードがまだ高価であり、パームトップ機のような小型マシンで安価に大容量のメモリを搭載するためには、HDD が適していた。CPU が特殊であったため、フリーソフトによる日本語化には時間がかかった製品である。

・Tidalwave ME-386

 台湾 Tidalwave 社が発売した、パームトップパソコンの代表的製品。このマ シンは、日本では秋葉原のショップで販売されたこともあり、謎パ~機の中でもメジャーな機種となった。CPU に 80386SXLV(25MHz)を使用し、PCMCIA Type-II スロットを本体左右に2基搭載した本機は、IBM PC との互換性も高く、非常に使い易いマシンである。このマシンは、Mini Note とか Palm Book 、PS-3000等の製品名称で、各社から OEM 販売されているが、違いは LCD の化粧パネルのロゴ表示程度で、基本的なスペックは同一であった。こうした所も、謎パ~機と呼ばれる理由の一つであったと思われる。CPU の処理スピードもそこそこ高速であり、互換性も高かったため、多くの CGA 対応ゲ ームが軽快に動作した。

Tidalwave PS-1000

 台湾 Tidalwave 社が発売した、パームトップパソコン。CPU に V30(7.15MHz)を使用しており、日本国内では 1992 年 10 月頃から姿を現している。タッチタイピングが可能なキーボードを持ち、大きな CGA ディスプレイを搭載していたため、テキスト入力に適したマシンであった。

・Tidalwave PS-3000

 台湾 Tidalwave 社が発売した、ME-386 と同一のスペックを持つパームトップパソコン。

Psion Series 3

 英国 Psion 社が 1991 年に発売した PDA的な性格のマシン。CPU に V30H(3.84M Hz)を採用し、256KB の内蔵メモリを搭載している。OS は、EPOC-OS と呼ばれる独自仕様のものを採用していた。液晶画面は、240 x 80 ドット、2階調のモノクロ表示である。

Psion Series 3a

 1993 年 9 月に 英国 Psion 社より発売された、Series 3 の後継機種。CPU は Series 3 と同じ V30H(3.84MHz)であったが、内蔵メモリが 512KB、1MB、2MB と拡張されており、液晶画面も 480 x 160 ドット、3階調(白/グレー /黒)の液晶を採用している。また、録音・再生機能を備えており、8 ビットの DA コンバータと 13 ビットの AD コンバータが内蔵されている。8 ビット 11KHz サンプリングで PCM 録音することが可能である。

Psion Series 3c

 1996 年 9 月に、英国 Psion 社が発売した Series 3a の後継機種。Series 3a のマイナーチェンジ版であり、CPU のクロックアップ(V30H 7.68MHz)とバックライト付き液晶画面、赤外線インターフェスの内蔵等が施された。

Psion Series 3mx

 1998 年 7 月に、Psion 社が発売した Series 3c の後継機種。3cの機能を引き継ぎつつCPU にNEC V30MX(27.684MHz)を採用し、大幅な高速化がなされた。Series 3系列の最終製品である。

Psion Siena

 1996 年 9 月に、英国 Psion 社が発売した Series 3a/3c の廉価版マシン。 極めて小型軽量であるが、外部ストレージであるSSDドライブが省略され内蔵 RAM のみとなっている。

Psion Walkabout

 英国 Psion 社が発売した、防塵、防水加工が施された業務用端末。基本的な アーキテクチャは Series 3c と同じであるが、液晶ディスプレイが 240×100 ドットのバックライト付きとなっている点が異なる。その形状も、他の Psionシリーズと異なり、縦長の異様なものとなっている。 

・Psion Series 5

 1997 年 5 月に、英国 Psion 社が発売した、Series 3 の後継機。従来の 16 ビット 版 EPOC OS に替わって、32 ビット版である EPOC32 が新たに搭載された。タッチタイピングが可能なキーボードを搭載しているが、このキーボードは蓋をあけると迫り出してくるという凝った構造となっており、日本でも非常に話題となった製品である。オペレーションは、キーボードの他に、ペンでも行える。2001年に、OSレベルで日本語に対応したPSION 5mx Pro が発売された。

・GEOFOX Geofox One

 GEOFOX 社が 1997 年 11 月に発売した、EPOC32 互換 OS (EPOC 32 Geofox Version)搭載のパームトップパソコン。この OS は、Psion Series 5 と互換性がある。ポインティングデバイスとして、ペンの代わりにグライドポイントを使用している。液晶画面は、Psion Series 5 よりも大きくなっており、視認性が高い。但し、キーボードはボタンタイプであるため、この点では PsionSeries 5 に軍配が上がりそうである。標準で PCMCIA Type-II カードスロットを搭載しており、モデムカード等を利用できる。ネットワーク接続という点では、Geofox One の方が優れていると言える。 


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