波多 利朗の Funky Goods連載の第21回目。大英帝国製PDA、Psion Series 3/3a用の簡易日本語エディタJEditについて紹介した。このマシンについては、本誌1994年12月号の特集「謎のパームトップ機日本語化計画」で概要が紹介されている。その記事を読むと、CPUに80C86互換のV30Hを採用していることもあってか、MS-DOS互換OSをベースにMacライクなGUIを搭載したマシンではないかとの淡い期待を込めた憶測が述べられていたりする。しかしながら実際は、EPOC OSという全く独自のOSを搭載した極めてユニークなマシンで、他のパームトップマシンとは異なりDOS/C化による日本語環境の構築は不可能である。
筆者がこのマシンを初めて目にしたのは、知人の柴隠上人 稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏が、1994年9月に、このマシンと開発用SDKをアメリカのNewWorld TechnologieというPSION専門の通販ショップから取り寄せたのを見せてもらった時のことである。氏の言葉を借りれば「グラファイト製の二枚貝」のような洗練されたフォルムが実に印象的であった。
その後、同氏はこのSDKを用いて日本語ビューワーJviewの開発に着手し、1995年3月にベータ版を完成させた。これについては、本連載の1995年5月号で紹介している。さらに同年5月には本号で紹介する簡易日本語エディタのJEditの開発を完了し、8月にNIFTYのFSNOTEフォーラムで公開されることとなった。
DOS/C化のようなOSそのものの日本語化ではないものの、この洗練されたマシン上で日本語のテキストが作成できることの反響は大きく、本誌での紹介に引き続き、ASCII誌やHello PC誌でも紹介された。また日本語を学ぶ欧米の学生などの海外ユーザーも多かった。
(補記)
柴隠上人 稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏は、JEditの公開後、各種のPSION製EPOC OS搭載マシン用の日本語エディタを開発したが、その開発に用いたPCは、筆者が秋葉原のSTEPで投げ売りされていたのを捨て値で買った日本IBM製のPS/55 TYPE 5501-Z02であった。しかもHDDを搭載していない最廉価モデルで、同氏は、これに秋葉原のジャンク屋の「たんせい」で購入したPlus Hardcard IIという、ISAバスに挿入する謎のHDD一体型拡張カードをインストールして開発に用いていたのだ。486CPU全盛の時代に286CPUとジャンクの変態HDDカードを搭載した型落ちPCで開発を行うというのは、まさに奇人変人ローレベルプログラマの面目躍如といったところである。