IBM製造の純正機、PS/55 TYPE 5510-Z02である。80286を12MHzで駆動していたマシンで、PS/2の後継機種に当たる。当時、IBMは内部バスにマイクロチャネルバスを搭載したビジネス向けマシンを多数投入していたが、このPS/55 TYPE 5510ーZシリーズはISAバスを搭載した一般コンシューマー向けのエントリーモデルで、立派なIBM PC/AT互換機の範疇に入る。
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■退廃的互換機趣味(其之三十一) (2010/01/23)
 【PS/55 TYPE 5510 発掘編】

 286時代に突入するにあたり、本シリーズのネタ袋とも言える倉庫に赴いて色々と漁っていた際、発掘されたのが、このIBM純正マシン、PS/55 TYPE 5501-Z02(以下、PS5510と略す)である。本シリーズは退廃的「互換機」趣味を唱っているのに、IBM純正機を取り上げるとはこれいかに?と細かいイチャモンを付けてくるお方もいると思うので、若干の屁理屈を述べさせて頂く。

 1987年、当時のIBMは、それまで発売されていたいわゆる「IBM PCファミリー(元祖IBM PC、PC/XT、PC/AT)」からPS/2シリーズへの展開を図っていた。しかしPS/2シリーズでは、当時広く普及していたISAバスを廃し、IBM独自仕様のマイクロチャネルバスを搭載したがために、それまで発売されたAT仕様の拡張カードが使えなくなるという致命傷を持つことになり、これが普及の足かせとなってしまう。(ついでながら、ものすごく細かいことを言うと、PS/2シリーズでも下位バージョンにはISAバス版という製品が存在した。1990年のModel PS/1や1991年のModel 35SX等がそれに相当する。)

 そんな中、一般コンシューマへのDOS/Vの普及と対NECマシン対策のため、PS/55 TYPE 5510が1991年5月に発売される。このPS/55 TYPE 5510シリーズは、構造的にはPS/2をベースにし、日本語表示としてDOS J4.0/V、いわゆる「DOS/V」を同梱、さらにバスもISAバスが搭載され、ここに再び往年の「PC/AT互換機」と呼べるものがIBMから登場したというワケである。またこのシリーズには、特にエントリーモデルとして発売された「5510-Z」シリーズがあった。これはCPUに80286-12MHzと、当時としても非力な石を使ったものだったが、「あの」IBM純正マシンが198,000円で購入できるという低価格を実現していた。

 そんなワケでざっくり言えば、PC/AT互換機の大元を作ったIBMが、マイクロチャネルバスでコケて、その後再度PS/55としてPC/AT互換機を世に出した、というのが粗筋になっていて、よってこのPS5510は、立派な「退廃的互換機」の範疇に入ると言えるのである。なお、PS/2があまり普及しなかった原因として、マイクロチャネルバスやらABIOSの搭載やらのハードウエア・アーキテクチャの非互換性をあげることが多いが、3.5インチFDDの搭載、VGAのサポート、PS/2 I/Oポートの搭載など、その後のPC/AT互換機の標準仕様を確立した点は評価できる。おっと、若干前置きが長くなってしまった。

IBM PS/55 TYPE5510-Z02の外観。鉄製筐体は鬼のように重い。メンテナンス性は高く、裏のネジ一本を外すだけでケースを開けることができた。
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IBM PS/55 TYPE5510-Z02の裏面。左端に電源ソケット、中央上部に筐体固定用ネジが配置される。ISAバススロットは3本。I/Oポート関連は、下部に横一列で配置される。当然、PS/2のマウスとキーボードを接続する。
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IBM PS/55 TYPE5510-Z02の電源スイッチ回り。中央の窓の中に、モデル番号とシリアル番号が記載される。FDDのみの他にHDD内蔵のモデルもあるため、HDDアクセスランプも用意されている。「DOS/V」と大きく書かれたシールが、このマシンの存在意義を端的に表している。まさにDOS/V普及のために作られたマシンだったのだ。
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 さて、発掘してきたPS5510-Zであるが、製品としては1991年初頭に製造され、1991年5月に出荷されたものだ。筆者が購入したのは、確か1992年の夏頃であったと思う。場所は忘れもしない、秋葉原の激安店、5つの「NO」で有名な「STEP」秋葉原2号店であった。そう、本コーナーの2009年10月10日号で紹介した、あのSTEPだ。ふっふっふ・・・一見行き当たりばったりのように書いているこのコラムも、実はちゃんと伏線を敷いていたりするのだよ!

 で、PS5510には、T、Z、Sの各シリーズがあったがここに掲載した製品は、最も価格の安い5510-Z02である。5510-ZシリーズにはZ02/ZJ2、Z04/ZJ4の、大きく二種類が存在したが、その違いは40MB(!)の内蔵IDE HDDを搭載しているか否かにあった。当然STEPで購入した激安品は、HDDレスのFDDオンリーモデル(ZJ2)で、価格は確か4万円台だったように記憶している。

 たかが80286マシンに4万円も出すとは、バッカぢゃない?と今は思われるかもしれないが、1991年当時のPCの価格からすると、デスクトップ機としては破格の安さであり、二台目にはうってつけの製品だったのだ。しかもIBM純正機というブランドものでもある。問題はHDDで、内蔵されていないのはさすがに痛い。元々本製品が激安で購入できたのも、おそらくは不良在庫の処分品だったからであり、確かにFDD×2台のみではロクな作業ができないから、かなりの数が売れ残ったのであろう。

 そこで、このマシンにHDDを搭載するべく、T/ZONEに行き、SCSIホストアダプタとしてTRANTOR T128、外付けSCSIドライブとして日本テクサ株式会社のPRIME 80(SCSI 80MB HDDユニット)を購入し、使用していた。このTRANTOR T128なるSCSIカードであるが、ナント!XTバスだった。すなわち、8ビットバスだったのである!

 日本テクサのPRIMEシリーズは、当時あまり品揃えが無かったIBM PS/55シリーズ用周辺機器として発売されていたもので、PC98帝國支配下においては、動作保証する製品として他に選択肢は無かった。SCSIホストアダプタとSCSI HDDをセットで購入した方が、マシン本体の価格よりも高額であったという、悲しい記憶が残っている。その後、TRANTOR T128 SCSIカードの物理的破壊により、HDDが使用できなくなってしまった。同カードは倉庫のどこかに眠っているハズであるが、未だ発見できていない。但し、なぜかマニュアルだけは残っている。

 筆者宅におけるこのPS/5510-ZJ2の物語は、少々複雑である。上記のように、SCSIカードの破損でHDDが使えなくなった後、なぜか柴隠上人 稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏の下に管理が移管され、そこで「謎」のHDDカードを搭載した状態で暫く使用されたという経緯を持つ。この「謎」のHDDカードについては、追々詳細を述べることにしよう。その後、さすがに80286では使い物にならないということで、柴隠上人 稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏より返却されてきたものを倉庫に保存し、以降今に至るまでぬか漬け状態にあった。なお、氏に貸し出し中、氏はこのマシンを用いて、Psion Series3、3a等上で動作する日本語エディタ「JEdit」を開発している。いくらなんでもと思うのだが、Psion Series3で唯一の日本語エディタが、ナント!80286を使って開発されたとは、全くもって驚くしかない。まあ、そういう意味では思い入れの多いマシンなのである。

 今回は発掘偏ということで、このマシンの来歴を記載した。オタノシミはこれからである。このマシン、実に香ばしい。なんというか、こう、ツッコミ所満載なのである。周辺機器にしろ添付されてきたOS(DOS J4.0/V)にしろ、マザーボードにしろ、何かと話題に事欠かない。というわけで、暫くはこのマシンを中心にお付き合い頂くことになる・・・

ケース前面に輝くIBMのエンブレム。このエンブレム、良くできており、マシンを縦置きにしても横置きにしても対応できるようになっている。写真は横置きの場合。
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ケースを縦置きにする場合には、エンブレムも90度回転するという芸の細かさが、IBMだねぇ。。。
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ケース裏面に貼付された銘板。Made in JAPANである!今では考えられないな。右上に「Type 5510」の記載が見える。この5510という型番であるが、IBM社内においては重要な意味があった。その昔、失敗作となったIBM JXの製品番号が5510だったのである。このマシンに敢えて不吉な番号である5510を付けたのは、「JXの失敗はこのマシンで精算する」という同社の意気込みであったと言われている。
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I/Oポート群。左側から、VGAモニタ出力端子、シリアルI/O、パラレルI/O。ビデオはオンボードでVGAチップを搭載していた。詳細は次回以降に譲る。
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次回「PS/55 解剖編」の予告とも言える写真。筆者宅の汚い実験ベンチ上に剥き出しで置かれたPS5510。ISAバススロットには、なにやら怪しげなカードが挿入されている。これもネタの一つなのだ。待て!次号!!!
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