以前、自動車雑誌「Tipo」1999年9月号(No.123)にお いて、「フィアット500で真夏に500kmラン!」という企画が行 われたことがある。東京から大阪まで、東名・名神をひた走り、この小 さい車がどの程度実用的かを検証する実験であった。この企画で使用さ れたチンクェチェントは、500Rのエンジンを搭載した、完璧にメン テナンスされたものであった。 これを読んで以来、筆者の車はどの程度耐久力があるのかが気になって いた。筆者のチンクェチェントは全くのノーマル仕様。エンジン排気量 も499ccとオリジナルのままであるし、オイルパンも鉄製の2lタ イプのものしか搭載されていない。そこで、東京都内から埼玉某所まで 約50kmのコースを、真夏の炎天下の下で走ってみることにした。 Tipo誌の企画では、500kmという超ロングドライブを設定して いたが、さすがにこれを真似するのは骨が折れる。今回は距離こそ50 km程度と少ないものの、炎天下の中、渋滞が激しい都内の一般道を走 行することで実用性と耐久力を見てみることにした。 さすがに一人で走行するのは心細いし、なによりも写真が撮れない。そ こで今回は、プロの整備士であり、ビートクラブ656会員でもある、 Randy氏に同行してもらうことになった。Randy氏は、つい最 近まで黄ビー(黄色のビート)に乗っていたのだが、趣味の自転車を搭 載することが困難であるとの理由から、このほどダイハツのミゼット2 に買い換えたばかりである。そこで今回は、チンクェチェントとミゼッ ト2のコンビでツーリングと相成った。 走行実験は2002年7月15日(月曜日)午前10時スタート。当日 の最高気温は33℃。台風7号の接近に伴い、天気は良好なれど湿度が かなり高く、蒸し暑い日となった。フルノーマルのチンクェチェントで 唯一モデファイしている部分は、エンジンフードを上開きにしてあると ころぐらいである。以下、出発から到着までをフォトレポートする。
写真1.出発直後。都内の駐車場から出たところ。 走り出してまだ1分も経過していないので、当然余裕余裕! この後に訪れる灼熱地獄の苦しみを、ドライバーはまだ知らない。 写真を良く見ると、右側のドアが半ドアになっている。これは途中気付 いて、あわてて閉めなおした。エンジンフードは左右両側に搭載した ステーにより、上半開き状態になっている。猛烈なエンジンの熱気を 外に逃がすための措置だ。 |
写真2.住み慣れた都内の街を行くチンクェチェント。 前を行く関東バスが、やけにばかでかく見える。出発後5分経過。早くも じわじわと汗が噴出し、ポカリスェットをがぶのみ状態。先が思いやられ てくる。こんな日に運転しなきゃ良かったと、若干後悔モードに入る。 キャンパストップは最初開けていたが、熱射病を恐れてこの時から閉める。 おかげで風通しが悪くなり、いっそう汗が噴出してくるが、仕方あるまい。 |
写真3.西武新宿線上井草駅横の踏み切りを超え、 ようやく千川通りに入るチンクェチェント。この通りは運転しやすく 快適だ。平日ということもあり、交通量も少なく助かる。室内はすで にサウナ状態。タオルで顔を拭き拭きの運転である。これは拷問か? はたまた罰ゲームか?? |
写真4.千川通りと笹目通りとの交差点、八成橋第二信号。 ここを左折すれば、いよいよ笹目通りに入る。路面からの照り返しがまぶしい。 キャンパストップは当然閉めている。風通しを良くするには開けたいところだ が、熱射病が怖い。それほど凶暴な日差しなのである。。。。 |
写真5.笹目通りの左斜線を、よろよろと走るチンクェチェント。 そこそこの混み具合なので、スピードも抑え気味で助かる。どの車もエアコン 全開で窓は鬼のように閉め切っており、見るからに快適そう。時々隣りの車線 を走る車から、奇異な目で見られる。いったいこの暑い最中、何をやってるん だといった感じ。。。。いや、実際何やってんだかなんだけどね。 |
写真6.和光市下新倉付近にある、怪しい解体屋前で 記念撮影。「古美術品家具道具 古刀剣槍 鑑定買入」の看板がかかる。 しかし、中はどうみても産業廃棄物の堆積。謎だ。この付近から恐れて いた渋滞が始まる。炎天下の渋滞、上出来じゃないか?文句無しのシチュ エーションだ。 ここまでくると、もうどうにでもなれの気分。恐れていたパーコレーション によるエンジンの燻りは、兆候皆無。意外と丈夫なもんだと感心。 |
写真7.筆者のビート購入店である「オートテラス 城北」前を通過中。ビートだとここまで来るのに何の苦労も要らない が、これがチンクェチェントで、しかも真夏となると話は別だ。渋滞 もようやく先が見えてきて、胸を撫で下ろす。出発後、約1時間が経過。 しかし、まだ新大宮バイパスにすら入っていない。今回の行程の、40% といったところなのだ。 Sigh・・・・ |
写真8.笹目橋を渡るチンクェチェント。ビートな らば2速で8,500rpmまで引っ張り、日ごろのウサを晴らす ポイントなれど、非力なチンクェチェントでは、周りの車のペース について行くだけで必死。しかし渋滞も解消され、三角窓からは 生温いものの風も入ってきて、気持ちよい。生きてて良かったと思う 瞬間。 |
写真9.新大宮バイパス沿いに、噂の「Parts Depot」を 発見。PC Depot は良く見かけるが、Parts Depot は初めてだ。写真右下に ちょろっとチンクェチェントの屋根が見える。浦和付近で若干混雑。 |
写真10.もうすぐ大宮という地点。高速5号の高架下に 入れば、日陰で運転できるので、若干快適。しかし、なかなか日陰に入れそ うで入れない状態が続く。機関全く快調。途中休憩を予定していたものの 一気に走ってしまうことに決定。意外と丈夫なエンジンは、この後上尾付近 までノントラブルで走りきってしまった。運転者の方がバテそうだわい。。 |
写真11.無事埼玉某所の駐車場に入ったチンクェチェント。 炎天下での地獄の50kmドライブも、ようやく終了。途中、渋滞もありかなり 厳しい条件であったにもかかわらず、機関は問題無く、まだまだ大丈夫そうで あった。しかしパーコレーションの兆候は見受けられた。フューエルストレーナ に全くガソリンが入っていないのだ。これがもう少し進めば、キャブで全ての 燃料が蒸発してしまい、エンストを起こすところである。ギリギリセーフと いったところか? |
【おわりに】 ノーマルのチンクェチェントでも、日本の夏はまだまだ大丈夫といった ところだろうか?但し、今回使用した車は、3月にキャブレターを新品 に交換している。交換前の30年間使ったキャブレターでは、夏場のパ ーコレーションが結構激しく、ちょっと買い物に行っただけで起こって いたからだ。交換したと言っても、フルノーマルのキャブレターを使用 しており、特別なことは一切行っていない。 日頃のメンテナンスをキチンと行い、点火系と燃料系をしっかりと機能 させれば、少々の暑さでも問題無く走るというのが、当たり前のようだ が今回の結果となった。また、エンジンフード上開きの効果も、若干で はあるがあったのではと思われる。掲示板等を見ると、エンジンフード の上開きは、上昇した熱気がフレッシュエアー取得口から入り込むため かえって逆効果であるとの意見も見受けられるが、今回試したところ、 そのような兆候は見られなかった。走行中は風圧により、上昇した熱気 は常に後方へと流されて行くので、問題無いのであろう。むしろ、パー コレーションの予防という点で効果的であったといえる。エンジンフー ドを閉め切った状態で走っていたら、無事たどりついたかどうかわから ない。 最後に、真夏にチンクェチェントに長時間乗る時には、吸湿性の良いT シャツを着ることをお勧めする。筆者の場合、背中一面が土砂降りの雨 の中を走ってきたみたいに濡れてしまい、タイヘンであった。。。。。
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