■IBMが1984年8月に発売したパーソナルコンピュータ、PC/ATの初代 モデルに使用されていた、フルサイズATのマザーボード。PC/ATのマザー ボードには、ここに掲載したフルサイズ版と若干小型化されたBaby−ATサ イズの2種類が存在した。その後、Baby−ATサイズは互換機マザーボード の主流となる。以下に、各サイズの最大外形寸法を記載しておく。 ・フルサイズAT :横350mm×縦305mm ・ベビーATサイズ:横350mm×縦239mm ■本ボードは1985年7月5日製造。「256/512K SYSTEM BO ARD」のシルク印刷あり。搭載メモリ容量は512KB。CPUは80286 (6MHz)。 ■CPUは68ピンセラミックPGAを使用。1984年製造のintel社製 (CG80286−6C)。メモリは16ピンDIPパッケージのTI社製 ZA1250NLを亀の子形式で2段重ねしたものを、総計72個用いている (9個×4列×2段=72個の構成)。DRAMは、おそらく128Kbit製 品で、メモリ搭載容量は総計1MBとなる。本来、このシステムボードでは、亀 の子形式でメモリを搭載していないため、512KBが最大容量となっていたハ ズである。なお、使用されているDRAMのスピードは150ns。製造は19 85年10週となっている。 ■CPUクロック用発振素子には、12MHzの水晶を使用。これを1/2分周し て6MHzのCPUクロックを得ていた。 ■以下に、IBM PC/AT本体のスペックを示す。
型 番 | IBM 5170 |
発売年月日 | 1984 年 8 月 14 日 |
CPU | intel i80286(8MHz) |
Memory | 256/512KB |
FDD | 5.25 インチ 1.2 MB(2HC)ドライブ |
HDD | 5.25 インチ ST-506 タイプ 20 or 30 MB HDD |
Video | CGA 320 x 200, 16 Color / 640 x 200, 1 Color |
■基板上には切り替えスイッチ(SW1)が1個搭載されている。これは、ディ スプレイにCGAを使用するかMDAを使用するかの切り替え用。 ■IBM The PC、PC/XTは、システムの初期設定を基板上のDIP スイッチで行っていたが、PC/ATでは「Diagnostics」という アプリケーションソフトウエアを起動させ、CMOS−RAM中に設定する方 法を採用している。これは今日のマザーボードにおけるホットキーによるBI OS設定のハシリと言える。 ■基板上に設けられたコネクタは、下記の通り。 ・ATパワーコネクタ(PS8、PS9) ・スピーカーコネクタ(J19) ・パワーLED&キーロックコネクタ(J20) ・バッテリーコネクタ(J21) ・キーボードコネクタ(J22) ■CMOS−RAMのバックアップ用には、筐体外部にリチウムバッテリーパッ クを搭載して行っていた。バッテリーにはPanasonicのBR−E3 (6V)が良く使用されていたようである。このバッテリのIBM補修部品番 号は8286121となっている。
■本ボードに使用されているLSIは、以下の通り。
GC80286-6C | intel | CPU |
D8042 | intel | キーボード・コントローラ |
P8254-2 | intel | タイマ・コントローラ |
P8259A | AMD | 割り込みコントローラ(2個カスケード接続) |
AM9517 | AMD | DMAコントローラ(2個カスケード接続) |
MC146818P | Motorola | リアルタイムクロック/CMOS−RAM |
D82284-6 | intel | クロック・ジェネレータ |
D82288-6 | intel | バス・コントローラ |
SN74LS612N | TI | レジスタファイル |
TMM23256P-5878,5879 | IBM | BIOS ROM |
■IBM PC/AT の割り込み構成を以下に示す。
NMI | メモリ・パリティ・エラー |
IRQ0 | タイマ出力割り込み |
IRQ1 | キーボード割り込み |
IRQ2 | コントローラ2からのカスケード入力 |
IRQ3 | 非同期通信2(COM2) |
IRQ4 | 非同期通信1(COM1) |
IRQ5 | パラレルポート2(LPT2) |
IRQ6 | フロッピーディスクコントローラ |
IRQ7 | パラレルポート1(LPT1) |
IRQ8 | リアルタイムクロック割り込み |
IRQ9 | ソフトウエアド割り込み(INT0AH) |
IRQ10 | 予約 |
IRQ11 | 予約 |
IRQ12 | 予約 |
IRQ13 | 80287数値演算プロセッサ |
IRQ14 | ハードディスクコントローラ割り込み |
IRQ15 | 予約(SCSIコントローラ等) |
■IBM PC/AT の DMA 構成を以下に示す。
Channel 0 | DRAM メモリのリフレッシュ |
Channel 1 | 予約 |
Channel 2 | フロッピーディスクドライブ |
Channel 3 | 予約 |
Channel 4 | DMA コントローラ1へのカスケード |
Channel 5 | 予約 |
Channel 6 | 予約 |
Channel 7 | 予約 |
キーボードコネクタ部分のアップ 空きソケットは8087コプロセッサ搭載用のもの |
8042キーボードコントローラ(上)と MC146818 CMOS−RAM(左)のアップ |
8259割り込みコントローラ(左上)、8254タイマ コンとローラ(左下)、LS612レジスタファイル(右) |
AM9517 DMAコントローラのアップ。 2個カスケード接続されている。 |
CPU付近の構成。クロックジェネレータや バスコントローラ、水晶発振子等が実装される。 |
整然と並んだTTL−ICの列 |
BIOS ROMのアップ。 右端にはDRAMの列が見える。 |
メインメモリを構成するDRAMの列。 9個×4列×2段重ねの構成。 |
亀の子状に接続されたDRAM |
拡張バススロットの列。16ビットのATバスが 6本、8ビットのXTバスが2本の8本構成。 |
CMOSバックアップ用リチウム電池。 これをマザーボード上のコネクタに接続する。 |
■コメント 1984年8月に発売されたIBM PC/AT初代機に搭載されていた、 フルサイズのATマザーボードです。DOS/V黎明期には、互換機の構造を 理解するには、本家IBM PC/ATのマザーボードを見るのが一番だと言 われていました。それほど、ハードウエア構成がわかりやすい構造となってい ます。チップセットの高機能化、高集積化が進んだ現在では、このように大き なマザーボードを見る機会は滅多にありません。それほどまでに巨大なボード なのです。しかし、部品の実装密度に関してはおおらかで、配線は簡単に目で 追えるようになっています。周辺機能も、DMAコントローラや割り込みコン トローラ等に汎用部品を用い、見るだけで機能面を理解できてしまいます。 PC/ATは、その後CPUクロックが8MHzにアップされましたが、これ はその前の製品、6MHzの時のものです。80286を6MHzという周波 数で駆動するなど、今となってはちょっと想像することができませんね。 メモリもSIMMといった便利なものが登場する以前ですので、DIPパッケ ージのDRAMを並べて構成しています。パリティビットを含む9個のDRA Mを一塊としてそれを4列設け、さらに各DRAMを2個亀の子状に重ね合わ せて搭載容量を増やすといった涙ぐましい努力を行っています。基板はジャン パ等も無く、とても美しい配線パターンです。さすがIBMの製品だと感心さ せるマザーボードだと思います。
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