PC CHIPS M591 (1998)

写真1:PC CHIPS M591 MB 表面

写真2:PC CHIPS M591 MB 裏面

■中国のマザーボードメーカー、PC CHIPS社が試作した、オンボードで
 AT電源をも搭載してしまった空前絶後のマザーボード、M591。    
 正確な製造年は不明であるが、おそらく1998年前半だと思われる。   
■本製品は試作後量産中止となったため、極めてわずかしか製造されていない。
 日本に輸入されたボードは、おそらくこの1枚のみ。中国本土でも何枚製造さ
 れたのか不明。                            
■パソコンに必要となる機能の全てをマザーボード上に搭載すべく開発された、
 究極のワンボードパソコン用システムボード。通常搭載されるマルチI/Oの
 他に、ビデオ、サウンドはもとより電源やメモリもボード上に実装。    
 さらにマザーボードを販売する際に梱包する外箱が、そのままケースにもなっ
 てしまうという凝り様。すなわち、購入してきてHDDとCPUとCD−RO
 Mを接続すれば、即そのままパソコンとして使用可能という製品。同社では、
 この製品を「INSTANT TOWER」という名称で呼んでいた。   
■試作品であるため、細部の仕様については不明な点が多い。チップセットはヒ
 ートシンクが接着されているため明確では無いが、ALi社が製造した、So
 cket7用のワンチップだと思われる。PC CHIPS社では、本ボード
 に搭載したチップセットをTX ProIIという名称で呼んでいた。なお、
 チップセットの中に、2D/3Dグラフィック機能を内蔵する。      
■電源部の入力仕様は、AC90〜260Vのワールドワイド対応。この基板に
 は、一般的なATマザーボードに搭載されている電源コネクタは無く、電源部
 に設けられた専用のコネクタにAC100Vを直接接続して使用する。ボード
 に必要な電源は、オンボードの電源部から基板上へ直接供給される。また、H
 DD等の周辺機器へ供給するための電源コネクタが、マザーボード上に用意さ
 れている。                              
■基板上に使用されている主なデバイスの型番は、下記の通り。       
 ・チップセット:型番不明                       
 ・UT6164C64AQ-6 9806 :キャッシュメモリ                
 ・UT61M256JC-12 9752 :タグメモリ                   
 ・CMA8865-27 9810 :クロックジェネレータ               
 ・SEC K806A :不明                          
 ・HT1869V+ 9812 SoundPRO :サウンドチップ               
 ・UMC UM8670F 9811 :I/Oチップ                    
 ・ASD AE29F1008-15 9816 :BIOS チップ                 
■以下にボードのスペックを示す。                    
項 目
内 容
CPU
Socket 7 対応 CPU
Intel P54C/P55C
AMD K5/K6 (3.2V & 2.2V)
Cyrix/IBM 6x86/6x86L/6x86MX/M II
IDT C6
CPU Clock 75 MHz - 300 MHz
外部バスクロック 50/55/60/66/75 MHz
Chip Set TX Pro II ChipSet(おそらく ALi 製)
Momory
168 Pin DIMM スロット2個搭載(256MB)
オンボードでメモリ実装用ランドを搭載(32MB SDRAM)
Chche 512KB PBSRAM 搭載
VGA オンボードVGA(64bit アクセラレータ/4MB VRAM)
Bus PCI × 3本、ISA × 2本搭載
Super I/O
COM1 , COM2 , LPT1 , FDD , Primary-IDE , Secondary-IDE
PS/2 Mouse , Sound(PC98) , USB ,IrDA ,VGA(2D & 3D)
BIOS AMI BIOS

写真3:チップセット周辺

写真4:サウンドチップとI/Oチップ周辺

写真5:キャッシュメモリ周辺

写真6:AC100V入力コネクタ
中央の3接点のコネクタへAC100Vを入力する

写真7:BIOSチップ周辺

写真8:基板上の捺印
製造年月は試作を示す「8888」表示

写真9:周辺機器用電源コネクタ
中央の白いコネクタが、一般的な周辺機器用電源供給コネクタ

写真10:オンボード搭載メモリ用のランド
ランドのみでデバイスは実装されていない

写真11:ダンボール箱型ケースの全景

写真12:ダンボールケースに収まった基板

写真13:ダンボールケース前面ベイ
左側にCD−ROM、右側にFDDを搭載可能

写真14:ダンボールケース背面
電源ファンのちゃんと備わっている

写真15:ダンボールケースを閉じたところ

写真16:M591 製品カタログ

■コメント                              
このマザーボードは筆者のコレクションの中でも、とりわけ貴重なものです。
PC CHIPS社が試作した電源をオンボード搭載したマザーボードで、あ
とにも先にも日本ではこれ1枚しか存在していないハズです。中国本土でも、
いったい何枚残っているのか不明ですが、おそらく数枚のレベルでしょう。 

このボードは、1998年当時、雑誌でPC CHIPS社の製品を紹介した
際に、懇意にしていた同社の日本支社長さんから頂きました。国内の互換機雑
誌にも掲載され大変な人気となり、いつ発売されるのかという問い合わせが相
次いだボードです。しかし、様々な規制から、残念ながらこの製品は試作で終
わってしまいました。試作品ながら本製品は、モックアップモデルとは異なり
通常のSocket7搭載のパソコンと全く変わらない動作をしていました。
それだけに、日の目を見なかったのは残念です。             

もともと、この製品の開発コンセプトは、オールインワンマザーボードの発想
から来ています。当時、Socket7用チップセットとして、各社が互換製
品を相次いで発表し、低価格マザーボードが続々と発売されていました。そん
な中で、PC CHIPS社はコスト優先のパソコン用として、全ての機能が
1枚の基板に収まった製品の開発を行ってきました。オンボードでサウンドや
ビデオ、メモリ等を実装して行き、その究極の姿として電源までをも搭載して
しまったのです。しかし、それだけでは終わりませんでした。ここまで集積し
たのだから、ついでにケースも付けてしまえというエンジニアの「お遊び」で
ボードを梱包するダンボール箱そのものがパソコンのケースとしても使えるよ
うに設計されたのです。現場の技術者は、このパソコンを「Instant 
Tower」の名称で呼んでいましたが、日本では「カップラーメンパソコン
」というあだ名で呼ばれていました。その名の通り、お湯(CPUとメモリと
HDDとFD)を注ぐだけで、パソコンが出来てしまいます。       

いかに「お遊び」とはいえ、それを実際に作ってしまうところが、中国の恐ろ
しいところ。この行動力に、現在の中国の経済発展の原点を見るような思いが
します。日本ではどうひっくり返っても、このような突拍子もない製品は出て
こなかったでしょう。                         

試作品ということもあり、仕様的には不明な部分も多いボードです。また、各
地の展示会や雑誌社への貸し出しで、本製品そのものもかなりくたびれており
コネクタが破壊している部分もあります。今となっては正常に動作するかどう
かもわかりません。本ボードは残念ながら製品化されませんでしたが、これを
ベースに同社からはATX版のシステムボード、M741LMRが、またその
後、VIAのC3 CPUをオンボード搭載したM787CLRが発売され、
着実に経験が活かされています。                    

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