G・フレーザー著、反物質。シュプリンガー・フェアラーク東京株式会社発行。初版は2002年12月10日。


■反物質 (2008/04/20)

 既出「迷走する物理学 (2008/02/14)」「それは間違ってさえいない (2008/02/20)」、そして「超ひも理論を疑う (2008/03/19)」と、ここの所立て続けに現代物理学の暴露本、懺悔本を読んできたのであるが、それでは一体今現在、実験で検証され確実視されている理論とは何ぞや?という疑問を整理するために紐解いたのが、本書「反物質」である。2002年12月10日に発行された本書は、いわゆるひも理論、超対称性、M理論、余剰次元といった、ある意味カルト的とも思える発想が出てくる前、現代物理学が実験検証によって裏付けされ、健全な発展をしていた時のことを述べたものである。

 物語は1996年1月、全国のマスメディアに、反粒子の最も簡単な化学結合による反物質である反水素原子が実験室で初めて人工的に作られた報道から始まる。以降、電子と原子核の発見から陽電子の検出、反原子の作成まで、それらに関わった物理学者の人間像も交えつつ、解説を行っている。これらの検証は、スタンフォード線形加速器センターのSPEARや超伝導スーパーコライダーSSC、欧州原子核研究機構(CERN)のLHC等で事実として確認されている所が、ひも理論やM理論と決定的に異なる。

 筆者は、クオークとレプトンそれに力の媒介粒子であるW、Z、グルーオンといった、いわゆる量子物理学における標準モデルは信じている。このモデルは、おそらく間違いは無いであろう。CERNのLHCでは、近々にヒッグズボソンが検出される予定になっているそうだが、この辺りはちょっと怪しい。それ以降、いわゆるひも理論、超対称性、M理論、余剰次元といった理論物理学は、検証のしようが現状無いため、信じる、信じないは、ある意味宗教に近い。これらを検出する装置は莫大なエネルギーが必要となるため、おそらく筆者の目の黒い内は無理であろう。それどころか、人類がそれを検出できるかどうかも疑問である。筆者個人的には、クオークを構成する、もっと小さい何らかの「部品」があるように思える。タマネギの皮をむくように、あるいはマトリョーシカ人形のように、次から次へと極微の基本要素が出てくるのではないだろうか?

 本書は、「事実」としての量子物理学を俯瞰するには最適な本であると思う。

スティーヴン・ウェッブ著「現代物理学が描く突飛な宇宙をめぐる11章」の中に記載された、標準モデル。いわゆる「宇宙の部品」と呼ばれているものである。6個のクォーク、6個のレプトン、そして力の媒体粒子である光子(γ)、Wボソン、Zボソン、グルーオンが並んでいる。これに、素粒子に質量を与えると言われているヒッグズボソンが入るのかどうかは疑問。また重力子であるグラビトンも、まだどう扱って良いのか確定していない。
(出典:青土社)

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