磁気コアメモリ基板。 基板の大きさは一辺約35cm。中央部分に磁気コアメモリ本体が搭載され、駆動回路が周辺部分に配置される。 →拡大 |
■磁気コアメモリ (2014/08/17) コンピュータ前史に目覚めてしまった筆者は、歴史の証人、語り部となるべく、さらなるレア・アイテムを求めてネットの世界をさ迷っていた。ここに取り上げた物も、そんな過去の遺産である。 磁気コアメモリ。 単にコアメモリとも称するコンピュータの記憶装置の一種である。 今でもUNIX等を使っていると、プログラムの暴走・停止によりコアダンプが起こりメモリの内容がファイルに吐きだされる。この「コア」の語源が、磁気コアメモリの「コア」である。 磁気コアメモリは、コンピュータ関連装置の中でも、最も家内制手工業的なものだった。製造は基本的に人間の手によって行われ、自動化されたことは無い。人手により製造された、これほどの微細加工製品は、そうは無い。しかも、コンピュータのメモリとして、1960年代には盛んに用いられていたのである。気が遠くなるようなハナシだ。 磁気コアメモリは、その名の通り直径が1mm程度のリング状のフェライトコアに情報を蓄積して使う。フェライトコアには、書き込み2本、読み出し1本の、計3本の配線が通る。特定のコアにデータを書き込む際には、書き込み用の2本のケーブルに電流を流すことで、指定された位置のフェライトコアを磁化させる。読み出す際には、同じく2本の書きこみケーブルに電流を流し、その位置のフェライトコアを通る読み出しケーブルの電流を検出する。 この方法では、データ読み出し時に書き込み用ケーブル2本に電流を流すので、フェライトコアが磁化されてしまい読み出し前の内容が消失する。従って、このメモリでは非破壊読み出しができない。情報読み出し後のデータ消失については、ライト-アフター-リード・サイクルという方法によって対処した。 Wikipediaの「磁気コアメモリ」の項目には、面白い記述が有る。磁気コアメモリの記憶容量も、ムーアの法則に従っていたというのだ。ムーアの法則は、「集積回路上のトランジスタ数は18か月(=1.5年)ごとに倍になる」というものだった。2年後には2.52倍、5年後には10.08倍、7年後には25.4倍、10年後には101.6倍、15年後には1024.0倍、20年後には10 321.3倍ということになる。最初期の磁気コアメモリは、1ビット当たり1ドル程度だったそうだが、10年後には1ビット当たり0.01ドルにまで下がったそうである。 ここで取り上げた磁気コアメモリ基板は、デバイスの捺印から1974年頃の製品であると思われる。メーカー名は明確では無いが、基板上には「DIGITAL COMPUTER CONTROLS」のシルク印刷がある。写真では磁気コアメモリが良く見えるよう、上部を覆っていた保護カバーを外して撮影している。この基板は、おそらく磁気コアメモリの最終期の製品と思われる。
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磁気コアメモリ基板の裏側。 昔の基板らしい配線パターンである。正直、こういうパターンを見ていると萌えてくるのはヘンタイだからだろうか?それともフェチだからだろうか? →拡大 |
磁気コアメモリ部分。 →拡大 |
磁気コアメモリの配線。 恐ろしく細い線が丁寧にハンダ付けされている。気が遠くなるような作業だったに違いない。 →拡大 |
整然と並んだフェライトコア。 ここまで拡大すると、個々のフェライトコアが識別できてくる。 →拡大 |
フェライトコアのアップ。 現在使用しているデジカメの性能を目一杯使って拡大した、個々のフェライトコア。各フェライトコアには、書き込み用のケーブルが2本、読み出し用のケーブルが1本貫通しているハズである。とても細かくて見えないが・・・ |
ところで、その名も「CORE MEMORY」というタイトルの写真集がある。 副題は「ヴィンテージコンピュータの美」となっており、歴史的なコンピュータのディテールを圧倒的な高解像度で撮影したものだ。オライリー・ジャパンが2008年02月21日に発行し、株式会社オーム社が発売した大型書籍だ。 ヴィンテージコンピュータ関係の写真集はいくつか有るが、この本は筆者一番のお気に入りである。フレームがすごくクールなのだ。機種の選択も良い。題名通り、本書にも磁気コアメモリが超高解像度写真で掲載されている。
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「CORE MEMORY」の表紙。 が2008年02月21日、オライリー・ジャパン発行。 |
「CORE MEMORY」の裏表紙。 |
「CORE MEMORY」より。 UNIVAC Tに用いられていた水銀遅延線を使用した20kビットのメモリ装置。 |
「CORE MEMORY」より。 磁気コアメモリ本体。 |
「CORE MEMORY」より。 NEC、NEAC2203。1960年製造。 |
「CORE MEMORY」より。 Philco212の操作パネル。1962年。 |
「CORE MEMORY」より。 Philco212の基板モジュール。1962年。 |
「CORE MEMORY」より。 IBM System/360 Model 91の操作パネル。1962年。 |
「CORE MEMORY」より。 DEC PDP-8。1965年。 |
今回取り上げた磁気コアメモリは、イスラエルはエルサレムから入手したものだ。最近何かと話題になっている、あの地方からである。 |
1950年代末期のコンピュータ事情については、M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」に詳しい。発行は1957年。当時最先端のコンピュータ技術について、詳細に取り上げている。リレー・コンピュータの仕組みや当時の命令セットなど、今では忘れ去られた情報が詰まっている。記憶装置にも「Strage」の章が設けられ、磁気コアメモリの他にもウィリアムス管、磁気ドラムといったレアな装置の解説もある。
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M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」。 →拡大 |
M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」より。 もくじ →拡大 |
M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」より。 磁気コアメモリの項目から。 →拡大 |
M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」より。 ウィリアムス管の項目から。 →拡大 |
M.V.Wilkes著「AUTOMATIC DIGITAL COMPUTERS」より。 磁気ドラムの項目から。 →拡大 |
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