信託銀行作成の「遺言信託」パンフレット

■闘病日記 其の二十八【遺言状】 (2014/05/30)

 先が見えてきた私は、丁度良い機会なので、この際遺言状を作成することにした。

 なんてったって、「遺言状を作る」というようなコトは、人生においてそう何回も有るものでは無い。大抵の場合、一度きりである。結婚式なら、その気になれば5回、10回と挙げることができるが、葬式っちゅーのは長い人生において一度きり。遺言状の作成も、またしかり。

 常に経験を重視する私としては、この絶好の機会を逸するようなことはしたくない。

 とは言っても、私は遺言状をしたためるほどの資産を持っているワケでは無い。多少なりとも価値あるものといえば、自身が創出して権利化した特許3本くらいなものだ。後はそこそこ、並のヒト程度の、それはそれはつましいものしか持っていない。こんな大袈裟なコトをするほどでは無いのだ。

 でも、一度は「遺言状の作成」というプロセスを経験してみたかったんだよね。これはホントウのことである。因みに、何にでも興味を持つということは大切だよ。

 さて、善は急げと言うので(どこが善なのかが、今一つ不明であるが)、さっそく近所の吉祥寺にある信託銀行を訪れた。ここは、7年前に父が他界した際に、相続関連手続きでお世話になった銀行である。

 信託銀行に入り、係のヒトに「遺言状の作成を相談したいのですが・・・」と声をかける。係のヒトは一瞬私を、まるで場違いな所に来てしまった宇宙人を見るような目で、3秒間ほど凝視した。そりゃ、そうであろう。

 今日は気温が30℃を越える暑い日である。私の格好ときたら、ユニクロで買ったジーンズに10年間くらい着潰して色褪せた、これまたユニクロのTシャツ。足元はと言えばノーブランドのスニーカーという出で立ちだ。これじゃまるで、コンビニ強盗が銀行を襲いに来たような風体である。加えて手には、直前にヨドバシ吉祥寺店地下一階で購入したプリンタ用紙を入れた袋を下げている。

 どうでも良いことだけど、「コンビニ強盗」と書いたところで、思わずある一コマ漫画が頭の中にフラッシュバックしてきた。尊敬する漫画家、中川いさみ氏の代表作である「クマのプー太郎」だ。以下にそれを貼っておく。


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 いかんいかん、また脱線してもうた。。。

 ハナシを戻そう。銀行の係の人が発した最初の質問は、「お客さまは以前、当行とお取り引きがございますでしょうか?」というものだった。こんな貧乏くさい貧相な人間が、いきなり遺言状云々などと言い出したモンだから、冗談だと思ったのであろう。宜なるかな。市場原理主義に犯された資本主義社会の爽やかな側面を垣間見た気がする。

 私は、以前父の相続で同行のお世話になったことを伝えた。待つことしばし、今度は態度をガラリと変えた別人28号がやって来て、「お二階にお部屋をご用意しております」と来たものだ。ここから得られる教訓其の一。

ヒトを外見で判断してはならない・・・

 私としては、ちょっと聞きたいことがあっただけなので、あまり大袈裟な打合せにはしたくなかったのだが、ここまで来たら仕方が無い。乗りかけた舟である。「お二階」にある、それはそれはステキな応接室に通され、担当者と面談することになった。

 今回遺言状を作成するのにあたり、私には一つの強い希望があった。遺言執行人がどこまで責任と強制力をもって私の遺言を執行してくれるのか、という、極めて基本的な事柄に関するものである。私は死後、臓器移植ネットワークに献体した後、お骨は駿河湾に散骨してもらうことを強く希望している。ところが、例によって、家族が同意してくれないのだ。散骨については、まだ説得できる余地が残されているのであるが、臓器移植については断固反対の姿勢を崩さない。

 結果は予測できていた。臓器移植にせよ散骨にせよ、家族の同意が得られないのであれば、どんなに強い意思表示で遺言状に記載しても、遺言執行人としては強制することはできない、というものであった。まあ、仕方ないだろうねぇ。。。

 それはそれとして、とりあえず作成する方向で進むことにする。知材についても、相続税の対象になるかどうかワカラナイところもあるしね。こちらは信託銀行側で、現在税理士と相談しているところだそうだ。とりあえず今日はキックオフといったところだ。物語の出だしとしては上出来であろう。



遺言状作成時の費用例。まあ、こんなモンであろう・・・


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