手術前日に、予め手術着とうっ血防止用のハイソックス(サージカル・ストッキング)が配付される。

■闘病日記 其の十四 【麻酔科医の説明】 (2013/11/20)

 手術前日の午後、麻酔科医が回診に来て、手術の際に実施する全身麻酔の説明をしてくれる。この説明であるが、前回検査入院をした際に、他の患者に対して実施しているのを、数回漏れ聞いていた。おそらく麻酔科医は、全身麻酔の説明を、今までに何度と無く行ってきたのであろう。その内容は、お寺の住職が唱える般若心経の如く、実に滑らかで、かつほぼ毎回同じであった。

 考えてみれば、麻酔科医もタイヘンである。患者のほとんどは、ただ聞き流すだけで、その内容に興味を覚える人は少ない。そんな相手に対しても、きちんと説明しなくてはならない義務があるのだから、毎回紋切り型の表現になってしまうのも、致し方ない。

 私はと言えば、全身麻酔という処置に興味を感じていたので、他の患者よりも熱心に聞き、また色々と質問をした。麻酔科医では、こうして自身の仕事に積極的に興味を示す患者は珍しかったと見え、いろいろなことを丁寧に教えてくれた。

 一般的に、全身麻酔を実施した後、目が覚めると、体温が低下し寒気を感じるそうだ。また長時間手術台の上で同じ姿勢をとっているため、体が硬くなったりしびれたりする。頭痛や肩凝り、腰痛持ちの人は、麻酔後にその症状が、顕著に出てくる場合もあると言う。全身麻酔中の意識は全く無く、夢も見ないそうだ。寝て起きたら手術終了、といった具合である。臨死体験といったものは、期待出来そうに無い。手術中は、常に麻酔科医が患者の状態を見ながら投与量を調節するので、手術中に覚めてしまうということは無い。ただ、人によっては、手術中に麻酔の効きが弱くなることもあり、その場合には、「なんかガタガタやってるなぁ・・・」程度の記憶が残ることもあるそうだ。しかし、

切腹中に意識が戻ってくるのは、ご勘弁願いたい!

 麻酔科医からの一通りの説明を受けた後、私が先ず質問したのは、麻酔の効きである。この闘病日記にも書いた通り、毎日眠剤を使用し、かつ酒に強い私は、きちんと全身麻酔が効くのかどうか、非常に不安であったのだ。実際、大腸内視鏡検査や胃カメラの際に処方された眠剤は、全くといっていいほど効果が無かった。この質問に麻酔科医は、「作用原理が異なりますから、ダイジョウブ。ちゃんと効きますよ。」と、極めて明確に答えてくれた。但し、酒に強い人や眠剤を常用している人は、麻酔が完全に抜けるのに、少々時間がかかるのだそうだ。

 通常、全身麻酔実施後1日程度で、麻酔薬は尿や息を通して体外に出てしまう。酒や眠剤に強い人では、これがもう少し長びく場合がある。さらに、譫妄(せんもう)症状が出る可能性もある。譫妄症状とは、麻酔が抜けているハズにも関わらず、本人が何か行動を取った場合に、その記憶が部分的に欠落する、というものだ。麻酔終了後、2日くらい経過してから出る場合もあると言う。なにやらオソロシゲな症状だが、まさか出ることはないだろうと、この時は思っていた。

実際には出てしまったのだがね。

 以上、色々と説明を受け、説明書も渡されたが、深刻に悩んでもしょうがないので、あまり考えないことにした。最後に、手術後は、体に色々なチューブが多数突っ込まれた状態で目が覚めるので、驚かないように、と言われる。どのような状態になるのかは、目が覚めてのオタノシミということみたいだ。

 麻酔科医の説明後、明日着る手術着とうっ血防止のサージカル・ストッキング(ハイソックスタイプ)が配られる。このストッキングは、長時間同じ姿勢で寝ていても、足先への血流を確保するためのもの。足首とふくらはぎに段階的な圧迫をかけるように出来ている。これで、手術前日の準備は完了した。後は切腹を待つばかりとなる。

(つづく)


サージカル・ストッキングの説明書(1/2)。
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サージカル・ストッキングの説明書(2/2)。
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