ヒマな時に点滴ポールを引っぱりながら足を運んでいた、デイ・ルームと呼ばれる入院棟の共用部分。入院患者の唯一の楽しみは、ボードに貼られた「今週の食事メニュー」を見ることくらいであろう。過去の入院患者が残していった書籍類の蓄積も、若干ではあるが置いてある。壁に掛かった時計は、午前6時55分を示している。そう、朝から何もやることが無くてヒマだったのだよ。 |
■闘病日記 其の十一 【検査入院終了・退院】 (2013/11/16) 8日間の検査入院も今日で終了となる。しかし、この後すぐに、手術のための再入院が予定されているので、余り落ち着いてもいられない。ともあれ、久々に自宅に戻ることができるのは嬉しい。 昼食終了後までは、やることもなくヒマだった。午後一番で主治医の先生から、今回の検査結果の総括と、予定されている手術の内容説明を受ける。 手術内容であるが、先ずヘソを中心として縦に4〜5cm開腹し、上行結腸癌の部位を削除する。即ち、小腸と大腸の接合付近から、約15cm程度大腸を取り除き、小腸に再接合するのだ。まさに「切った貼った」の世界ですな。。。 なお、再接合時には、「自動縫合器」なるものを使用する。どんなものなのかと聞くと、主治医曰く「ホッチキスのようなもの」だそうだ。実物を見たことが無いので、そう言われても想像付かなかったのだが、後で画像検索をしてみて、大体の形状は判った。まさに「ホッチキスそのもの」みたいである。一例を挙げると、こんな感じ。 さらに、大腸切除の際に、今後癌細胞が転移しにくくなるよう、患部付近のリンパ腺も同時に取り除くとのことだった。 肝臓に転移した癌については、腹腔鏡を使用し、エコーで患部を調査しながら切削を行うそうだ。腹腔鏡手術は、腹を大きくかっさばく必要が無いので、比較的安全度が高い処方と言われている。具体的には、肝臓近くに幅約1cm程度の穴を開け、そこから内視鏡のようなものを入れて処置する。腹腔鏡そのものについては、見たことが無いので判らない。ネットで画像検索すると、色々と出てくるが、見ていてあまり楽しい画像では無い・・・ 私の場合、肝臓中央部にクルミ大の癌が確認されており、さらに、小さいが左外部に三箇所、怪しいところがあるそうだ。造影剤を用いたCTとMRIの検査結果からは、この小さい患部が癌細胞なのか、それとも単に水分が写っているだけなのかの判断が難しい。そこで、腹腔鏡を使用し、エコーで患部を確認した後、癌細胞だと確定できたら、切除することになった。 腹腔鏡による検査で、もしも肝臓の1/3以上を取り除かなくてはならなくなった場合には、その場で開腹手術に切り換え、もう一箇所ガバッと開けて切っちゃうとのこと。これら一連の手術により、ヘソに4〜5cmの開腹部分と、肝臓周囲に最低1箇所、最大4箇所の、幅1cm程度の穴が開くようである。ケンシロウのように、胸に七つのキズが付くのであれば、後々酒の肴程度のハナシのネタにはなるのであるが、腹に四つのキズでは、今一つ迫力に欠ける。 なお、体に開く穴は、これだけでは無い。 手術により体内にたまった血液や膿、浸出液などを体外に排除させる、「ドレナージ」と呼ばれる処方も施すのだ。今回の手術では、腹部の適当な場所に「ドレーン挿入用」の穴を設け、そこから負圧で体腔内に溜まる余分な体液を吸い出す。「ドレーン」と聞くと、空調機のドレン配管を思い浮かべるが、基本的に同じようなモノみたいだ。私のように半導体デバイス出身の人間にとっては、ドレーンと言えば真っ先に、電界効果トランジスタ(FET)の「ドレイン」を想像してしまうけどね。。。このドレーンというモノが、どのような形をしているのかは、この時点では把握できなかったが、何となくシリコンのチューブみたいなものを突っ込まれるんじゃないか?という感じはした。実際には、シリコンチューブそのもので、外部に負圧をかけるためのカタツムリの殻のような容器が付いているという代物だった。 以上で、手術に関する説明は一通り終了し、次に手術に伴うリスクの解説になる。言うまでも無く、合併症についての説明だ。合併症といっても色々とある。主なものは下記の通り。
・出血 (輸血で対応) こうやって並べてみると、いかにも恐ろしい気がするが、まあ、滅多に起こらないという主治医の言葉を信じるしか無さそうだ。なお、今回の手術は、大腸と肝臓の2箇所になり、さらに肝臓は腹腔鏡による検査で確認しながらの作業となるため、所要時間は通常よりも少々長めの5〜6時間程度を予定しているそうだ。 ここまで闘病日記として、その一から十一を掲載したが、前半が終わったに過ぎない。メーン・イベントの手術は後半となる。再入院は、4日の予定となった。まだまだ先は長い。。。。。 (つづく)
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11月16日(土曜日)の朝食。今まで色々と出てきた食事の中で、もっとも簡素なメニューだった。 ・5分粥(250g) ・かぶのの味噌汁 ・煮奴 ・梅びしお ・ホット牛乳 |
11月16日(土曜日)の昼食。今回の検査入院最後の食事である。 ・5分粥(250g) ・玉葱の味噌汁 ・はんぺんの二色焼き ・大根と人参の煮物 ・オエクシーアップル ・食塩 |
無題 (動画) 入院中、最も良く見た光景。病棟の天井である。なお、なぜこのような動画に仕立てたのかについても、意味がある。デビット・リンチの傑作「ツインピークス」を真似たのだ。最も、ツインピークスの映像は、この動画とは比べものにならないくらいの迫力があるが。こう書いて、「ああ、あのシーンか」と思った方は、かなり重症のマニアである。 また、くだらない動画を撮ってしまった・・・・・ |
【余談】 私の主治医は結構ラテンなノリで、限りなく前向きだ。患者に対しても、何ら隠し立てせず、デリケートな内容でも率直に回答してくれる。退院の際、私は今回の癌について、どの程度重篤な情況なのか、率直に言って欲しいと希望した。その結果、開口一番 このまま何もしなければ、あと一年持ちませんね! と、実にあっさりと伝えてくれた。私としては、変に気を使い、情報を開示してくれないのは嫌であるから、この方が有難い。どのみち、なるようにしかならないのだから、自らの余命は正確に知っておきたい。・・・とまあ、そうは思っていたのであるが、面と向かってこうハッキリと言われると、さすがに堪えるよな。。。 今回の検査入院では、私は「肝臓への転移が認められるステージ4の大腸癌」と診断された。ネット上に落ちている情報では、この条件での5年後の生存確率は、手術を施した場合でも17.9%とある。へぇ〜、 意外と低いね、こりゃ・・・ 癌における各ステージ毎の生存確率について、ネット上では結構悲観的な数値が多く見受けられるが、実際にどうなのかは、全く以てワカラナイ。年齢、抵抗力、免疫力、病状など、誰一人として同じ条件では無い。私の場合、ステージ4と言われて、そりゃ落ち込んだけれども、まあ、なっちまったものはしょうがないと達観するように心掛けている。ひと昔前では「人生50年」と言われた。もう50も半ばの初老にとっては、残りの人生はオマケみたいなモノである。
残された時間など、誰が知ろう・・・
余談の余談だが、映画「ブレード・ランナー」は、余りにもバージョンが多くて困ったものである。作品そのものは、マイ・フェイバリットの一つで、公開時の映画館での鑑賞を始めとして、今までに何度となくと見てきた。DVDも、5枚組みのコレクターズ・ボックスを購入した。多くの方は、ディレクターズ・カットもしくはファイナル・カットを評価しているようだが、私の場合は異なる。デッカードのヴォイス・オーバーによるナレーションが入ったバージョン、即ち劇場公開されたバージョン、もしくはレーザーディスクとして発売されたバージョンが、最も気に入っている。(これは、インターナショナル劇場公開版・完全版と称されている)。映画の内容がSFハードボイルドなのだから、やはりここは主人公のキザな独り言が入らないと、締まらないと思うのだがな。このバージョンのラストには、山岳地帯の空撮シーンが入る。このシーン、いかにもハリウッド的な、取って付けたようなハッピーエンドで気に入らないという人もいるが、あれはあれで良いじゃないかな。因みに、インターナショナル劇場公開版のラストシーンは、キューブリックが「シャイニング」を撮影した際、オープニングシーンで使用しなかったフィルムを拝借したそうである。 以上、闘病日記とは全く関係の無いことでした。
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ブレード・ランナー インターナショナル劇場公開版・完全版の、ラストの山岳空撮シーン。 |
同じくブレードランナーの公式公開バージョンでボツになった、有名なシーン。これはリサーチ試写版(ワークプリント)の中に入っている。例の「二つで充分ですよ!わかって下さいよ!!!」のシーンだ。公式公開版では何が二つなのかがサッパリわからないが、ワークプリントを見ると、デッカードが丼物を注文した際、ご飯の上に魚(実際何の魚なのかは不明)が二つしか乗っていないことにクレームを付けている。この辺りついては、町山智浩著の「ブレードランナーの世紀末」に詳しい。同書にも記載されているが、「実にどうでも良いことである。」 |
町山智浩著、「ブレードランナーの世紀末」(洋泉社刊)。映画ファンにとっては有名な本。80年代のアメリカ産カルト・ムービーが好きなヒトにとっては、たまらないであろう。最も、カルト・ムービーと言ったが、有名な作品がメインであり、コアなカルトファンには物足りないのも事実であるが・・・ |
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