今日は、採血、腹部MRI、腹部レントゲン検査と3連チャンだ。 |
■闘病日記 其の七 【MRIとマッドサイエンティスト】 (2013/11/13) 前回までのあらすじ。大腸癌だけかと思っていたら、肝臓にも転移していて、いつのまにかステージ4になっていたので呆然とした・・・こう書くと、実にアッサリとしてるね。 続きである。 大腸癌だけだったら、癌細胞を切削すれば、かなりの確率で完治できる、というハナシは、前々から聞いていた。しかし、肝臓に転移しているとなると、状況は異なる。ううむ、いったいいつの間に転移したのであろうか? まあ、なっちまったモンはしょうがないので、受け入れるしかありませんな。一瞬、アタマの中が真っ白になったものの、すぐに元の精神状態に戻った。この辺りは、私も達観しています。 さて、終電は何時かな? 一日明けると、大腸内視鏡検査の時に注入されたガスも、ほぼ抜け切った状態になった。しかし、相変わらず検査はまだまだ続く。今日は造影剤を注入したMRIの検査である。 MRI検査室は、病院地下の暗い一角にあった。普通のビルならば、蓄電池室とか電源室が配置されているような場所だ。そんな陰鬱な検査室で、私を出迎えてくれたのは、こんな場所にはモッタイナイほどの美人の看護婦さんだった。これで気分は少し和らいだものの、私の心の平穏は長くは続かなかった。検査技師先生が登場したからである。 この先生、言い方は悪いが、アタマのネジが若干ハズれかけている。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に出てくる、ドクター・エメット・ブラウンみたいなのだ。先ず、医師なのに白衣を着ていない。一見して、新橋駅辺りで良く見かける、昼食を食いに会社から出てきたサラリーマンそのものなのである。 肝臓のMRI検査では、特殊な薬品を注射してから実施するのだが、例の先生、先ずこの薬品のアンプルを見つけるのに大騒ぎだ。先の美人ナースと一緒に、あちこち引き出しを開けては、見つからないと毒づいている。こんなスットンキョウな先生の助手を務める美人ナースの心中を、私は慮った。 目指すアンプルを漸く探り当てると、先生は嬉しさのあまり奇声とも言える喜びの声を上げた。と同時に、ナースに対して愚痴をこぼし始める。 「このアンプルってさ、開けるの難しいんだよな。下手すると爆発して、白衣汚しちゃうんだよ。先週も一回やっちまって、白衣台無しにしちゃったんだよな。あんまり白衣ダメにすると、また病院から怒られちまうよ。」 これで、今日白衣を着服していない理由が、少し判ったような気がした・・・ なお、この肝臓検査薬は、絶望的に濃く入れたコーヒーのような色をしているので、確かにアンプルから漏れ出ると、後がタイヘンそうである。 そうこうしているうちに、検査の準備が出来たようで、右手に注射器、左手に採血用のゴムバンドを持った先生が、座って待っている私の目の前に仁王立ちになり、こう言った。 「左腕と右腕、どっちの血管が太い?」 私は正直言ってよく判らないので、「それは難しい問題ですね。」と、自分では無難と思える回答をした。すると先生、やおら持ち物を横のトレーに置くと、私の差し出した左右の腕を軽くパシパシと叩き、血管の様子を観察し始めた。さすがプロ、やり方が違うなぁと感心した10秒くらい後、吐き捨てるようにこう言った。 「・・・どっちも同じで判らないや。ハイ、左腕出して。」 ・・・かなり脱力する。。。このヒトに私の運命を預けて、ホントウに大丈夫なのだろうか?取り敢えず指示通りに左手を出し、正に薬品を注射しようとしたその時、例の美人ナースが声をかけた。 「先生、その患者さん、活栓付きの点滴をしているから、そこから入れたらいいんじゃない?」 入院した方は良くご存知だと思うが、点滴用チューブには、後から数種類の点滴を適宜追加できるように、ガス管の元栓のような機能を持ったT字型の器具が挿入されている場合が多い。これを、専門用語で「活栓」もしくは「多連活栓」と言う。私の場合は多連活栓が2個直列に付いていたので、本来の点滴ラインとは別に、あと2つまで、針を刺すこと無しに点滴を追加できる。 先生は、今初めて私の点滴の多連活栓を発見したかのような表情になり、「なぁんだ、こんなことなら注射器の準備をするんじゃなかった」と、一旦仕切り直しにかかった。しかし、肝臓造影剤が点滴チューブを逆流し、本来の点滴ラインを汚してしまうことを避けるために、結局当初の予定通り注射器での注入となった。 もうこの段階で、私は先生に対して、かなり不信感を持って接していたので、ちゃんと注射できるのかどうかのレベルまで疑ってかかるようになっていた。ところが、そこはマッド・サイエンティスト。やる時はやる。あっと言う間に注射は終わっていた。ヒトは見かけに寄らないものである。と思ったのも束の間、私の足元に、何か落ちているのに気が付いた。注射の際に使用した、止血用のゴムバンドが、床に落ちたまま忘れ去られていたのだ。。。やっぱりこの先生、何かオチが有る。 さて、造影剤でのMRI検査では、同意書を書かされる。内容は至って一般的なもので、どうということは無いのだが、一点、不思議な項目があった。 「閉所恐怖症ですか?」 という質問項目があるのだ。なんやねん、コレ?って思ったのだが、実際に検査を受けると、その意味するところが判った。 先ず、検査を受ける前に、身体の上に何やら色々な器具を載せられた上に、マジックテープでしっかりと拘束されるのだ。これじゃまるで、スマキにされて神田川へ放り込まれる当局関係者といったところだ。これだけでもかなり精神的な圧迫を感じるのだが、この状態で円筒状の狭いトンネルに入れられる。耳には耳栓が入れられているのだが、かなりの騒音だ。その後、延々と検査が続く。何分くらい入っていたのかは定かでは無いが、せいぜい、20分程度といったところだろうか?とにかく長く感じるられる。痛みは無いのだが、精神的な負荷の大きな検査なのだ。せめて装置本体に、検査の残り時間を表示する機能くらいは、気を利かして付けて欲しいものだと切実に思った。 余談だが、MRI検査では、点滴吊り下げ用のポールを専用のものに取り替える。例の美人ナースさんが説明してくれたのだが、通常の金属製ポールでは、強烈な磁場のために、ポールが検査装置に貼り付いてしまうのだそうだ。彼女は、実際にどのような状況になるのかを、研修用のVTRで見たことがあるそうだが、大のオトナが3名がかりになっても、剥がすことができない程の強度だそうである。 じゃあ、なぜ点滴用の針は大丈夫なのだろうか?という素朴な疑問が湧く。これも良くできていて、現在使用されている点滴用の針は、磁力に反応しない素材を使っているのだそうだ。 成る程ねぇ、、、実際に体験してみないと判らないコトは、意外とたくさんある。 (つづく)
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点滴ラインに設けられた「活栓」。点滴が無くなっても気が付かないと、このように血液が逆流して、チューブが赤くなってしまう。すぐにナースコールで対応することになる。この写真では、多連活栓を1個のみ使用している状態。開閉コックが付いている場所から、さらに1本、点滴を追加できるようになっている。 |
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