今回修理に出した時計二台。左はゼンマイが切れていた東洋時計。戦後間もない製品(昭和20年代)と思われる。右は精工舎の、通称「ウラビー」。こちらは古く、大正時代から昭和初期にかけての製品である。
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■置き時計の修理 (2009/10/24)

 本コラムで度々取り上げているが、近所の腕の良い時計屋さんに修理に出した置き時計を、本日引き取ってきた。1台は東洋時計製で、終戦後間もない製品。高さ9.5cm、盤面直径6.5cmと、大変小型な、オール金属製のゼンマイ時計である。こちらは肝心のゼンマイが切れていた。このような古い時計のゼンマイの切れ方には、傾向があるという。ゼンマイの最外周部を固定している付近が切れ易いとのことなのだ。しかし、今回の場合、珍しくゼンマイのほぼ中央部分が切れていた。従って、ゼンマイは同等品と交換。交換用部品を豊富に蓄積しているところが、この時計店のスゴいところである。

 もう1台は、有名な精工舎の通称「ウラビー」と呼ばれているもの。こちらは、高さは9cmと東洋時計よりも少し低く、盤面直径も6cmとやや小さい。大正時代から昭和初期にかけての製品で、もちろんオール金属製。この時計は筆者よりも年上である。この「ウラビー」という名称であるが、実はこの時計、米国Westclox社のBaby Benのパクり品なのだ。Westclox社のBaby Benには、BEEという製品があり、この「裏バージョン」、即ち「Ura−Bee」という意味合いで「ウラビー」と命名されていたのである。ここでスゴイところは、実際にこの時計、ウラビーという名称で箱にも「Ura−Bee」と記載して堂々と販売していたことであろう。当時の日本って、そーゆー国だったんでつねぇ。。。

 ところで、このウラビーは、動くには動くのだが、2〜3時間で止まってしまう。筆者も多少は時計修理の心得があるので、注油等をしてみたが、一向に改善しない。そこで修理に出したのだが、原因は結構根深いところにあった。

 時計店主の話によると、はずみ車(テンプ)の軸が偏摩耗していたのである。この軸部分は、本来鋭く尖っており、本体軸受けに点接触しているが、経年変化で摩耗し、回転時の抵抗が増加する。摩耗といっても色々あり、重力により片側だけ早く偏摩耗したり、全体的に鋭さが無くなってしまったりと、症状は様々だ。で、対応としては軸先端部分を鋭く研ぐのであるが、この部分は焼きが入れてあるので、非常に硬くかつ脆い。細心の注意を払って研ぐという。一度先端を研げば、定期的な注油で5年〜7年は全く問題無く使用できるとのことである。

 こうして無事修理が終えた二台の時計であるが、店主に言わせると、精工舎のウラビーは、メンテナンスが比較的簡単で、しかも精度が高く、大正時代のものでも整備すれば実用可能な製品になる。いわゆる「時間が出る」と言われ、正確に時を刻むことができるのだ。一方、東洋時計はといえば、どうしても多少の狂いが生じてしまい、日々微調整が必要とのことだった。老舗の精工舎は、やはり大正時代から高精度の製品を作っていたということであろう。

今回修理に出した二台の時計の側面。右端は、大きさの比較のために置いたライター。こうして見ると、2つとも大変小型であるのがお判りであろう。左側が東洋時計、右側が精工舎のウラビー。ウラビーの方が、若干奥行きがある。
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時計の裏側。左が東洋時計、右が精工舎のウラビー。大きな違いは、目覚まし用ゼンマイで、東洋時計はメインの駆動用ゼンマイと共有しているのに対し、ウラビーは独立したゼンマイでまかなっている。
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ウラビー内部のメカ部分。整備性は割と良い。
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ウラビーのはずみ車(テンプ)の軸受け部分(図中赤で囲った部分)。テンプの軸の先端が偏摩耗すると、動作が不安定となり止まってしまう。
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はずみ車(テンプ)の軸部分の摩耗の仕方。引き取りの当日、店主より教えて頂いた内容である。正常時は、軸の鋭く尖った部分が軸受けに入り、最少の摩擦で回転をスムースに行う(図左)。ところが長年使用していると、重力の影響を受け、偏摩耗を生じるため、時計のチクタク音が「チクタ〜〜ック」といったように偏心した音になってしまう。一時的に動くのだが、すぐに止まってしまう、という時計の原因は、これが多いそうだ(図中)。また、一様に摩耗することもあり、この場合は全体的に接触抵抗が増加して、動きが鈍くなり止まってしまう(図右)。


筆者の「ウラビー」及び小型金属製メカ時計のコレクション。現在修理中のものは掲載されていない。筆者はなぜか、このウラビーが大好きで、集めているうちに、こんな状態になってしまった・・・何事にも限度というものがあるなぁ。。。因みに、全て例の腕の良い時計店にて整備して、正確に動いている。
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