■死体入門! (2008/05/15)

 本書は、某新聞の書評欄でも取り上げられていたものである。先日、吉祥寺の「VILLAGE VANGUARD」へ行った際、平積みされていたので、思わず手に取ってみた。内容をパラパラと見て行くと実に面白そうだったので、買ってきてしまった。約200ページのペーパーバックだが、あっと言う間に読了するほど、濃い内容だったのでご紹介しよう。著者は、その紹介欄に「扱った死体は数知れず」と記載されている、法医学者の藤井司氏。メディアファクトリーのナレッジエンタ読本7。税別900円と、お値段もお手頃である。

 「死体入門!」とのことで、キワモノ本かと思われる方もいるかも知れないが、内容は法医学の知識に基づいて、「死」および「死体」について正確かつ精細に記載されたもので、実に勉強になる。まさにトリビアの宝庫。筆者は本書冒頭でまず、「100年後には66億体もの死体が生じている。これほど死体はあふれているのに、その存在は依然として隠されている。死体を見ようとしない、知ろうとしないことは、極めて不自然なことではないか?」との問題提起をしている。そして、死体の定義、死後の経過、ミイラ、死体を取り巻く世界、死体の利用法という5つの章立てで、話しは展開する。

 本書の折り込みには、鎌倉時代の絵巻物である「九相詩絵巻」が、カラーで掲載されている。これは、人間が死んだ後、腐敗して行く模様を写生したという、かなりグロ系の内容だ。書かれた目的は、人間が生きるということの儚さを表現するためと言われている。そういえば、松本俊夫監督の、1988年制作の実験映画「ドグラ・マグラ」にも、これと同様の絵巻物が出てきた。夢野久作の原作を映画化したこの作品では、呉 青秀という唐時代の画家が、玄宗皇帝をいましめるために、自らの夫人を殺して死体が腐ってゆく様子を写生し、絵巻物にするという異常行動が描かれている。

 閑話休題。本書の魅力は、現役の法医学者が語る様々なトリビアにある。初めて知ったのだが、デビット・リンチの名TVシリーズ「ツイン・ピークス」に出てきた「世界一美しい死体」のモデルと言われているものがあるとか、テネシー大学には、死体の腐敗状況を調査するための「死体農場」と呼ばれる学術施設があるとか、4時間程度の検死でこびりついた死臭は洗ってもなかなか落ちず、電車に乗ったら周りの人間が避けてしまうとか・・・ホントウに話題にはこと欠かない。そういえば、筆者がまだ小中学生であった頃、中国は長沙市で発見された馬堆王のミイラも載っていた。発見当時、大騒ぎになったのを今でも覚えている。本書によれば、このようなミイラは非常に特殊であり、第三永久死体の一種と思われるそうだ。その製造には、水銀や鉛が使用されたとのこと。2,200年前の漢時代の技術としては、画期的だな。。。

 最後に、筆者の本音というか、ぼやきが書かれているところが面白い。不用意に死体を恐れ、タブー化する傾向から、現在では法医学を目指す学生が減少しているとのこと。また死体に関わる職業人が、世の中の偏見から、死体を冒涜しているというように取られることを嘆いている。死体を徹底的に隠すというのは、日本固有の現象でもあるようだ。

 初心者を対象に、わかりやすく法医学を解説した本書は、今後もっと注目されると思われる。書中、ミイラや死体の写真やイラストが多数掲載されているので、この手の絵が弱いヒトはちょっと注意した方が良いであろう。「死」について「極めてマジメ」に解説した好著であると思っている。

松本俊夫監督のカルト実験映画の傑作!桂枝雀の怪演が話題となった一品。日本映画市場に名を残す一本だと思う。筆者のフェイバリットの一つ。原作は夢野久作。1988年活人堂シネマ製作・配給作品。

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