平凡社刊「ロクス・ソルス」表紙
以前ペヨトル工房から発行され、その後長らく絶版となっていた天下の奇書「ロクス・ソルス」が、平凡社から再販された。


■ロクス・ソルス (2005/10/01)

 筆者お気に入りのアニメーション、押井守監督作品「イノセンス」は、ダイアログに「引用」が多用されている作品として有名なのだが、ある日、これらの台詞に用いられている「引用」の原典を調べていて、天下の奇書「ロクス・ソルス」に行き当たった。作品中では、暴走事件を引き起こすガイノイド(女性型アンドロイド)の製造メーカー名として用いられている名称だが、出展はフランスの作家レーモン・ルーセルが1914年に自費出版した長編小説の名前である。以前はペヨトル工房より出版されていたのだが、同社の出版事業からの撤退で長らく絶版となっていた。現在は、平凡社ライブラリーで読むことができる。

 レーモン・ルーセル(1877−1933)という作家は、かなりの奇人であり、ピアノの名手だったそうだ。しかし、発表する作品はことごとく無視され、戯曲の上演も不発に終わる等、生前は評価されること無く、結局睡眠薬の多量摂取で自殺してしまう。その後、ようやく時代がルーセルの作品を理解できるまでに進化し、再評価されるに至った。

 「ロクス・ソルス」は、ラテン語で「人里離れた場所」を意味する。その名の通り、パリ郊外に築かれた大邸宅別荘「ロクス・ソルス荘」で、マッドサイエンティストであるマルシャル・カントレル先生が、自身が発明した品々を、見学に訪れた人たちに、延々と紹介して行く、という展開を取っている。そこに出てくる発明品が奇妙奇天烈で、およそ全うなアタマでは考えられないようなものばかりである。さらに、各発明品の動作が、まるでマニュアルの如きマニアックな描写で、延々と記述される。

 作品の特徴として、各発明品の動作の詳細が説明された後、その発明品の種明かしや由来に相当する部分が語られる形式があげられる。どのような由来でこの発明が成されたか?この発明品が暗示しているモノとはいったい何か?といった説明が、物語に大きな膨らみを与えている。微に入り細を穿った各発明品の動作説明は退屈に感じるかもしれないが、後半に語られるこの説明部分が、猛烈に面白い!

 各々の発明品も、グロテスク一歩手前の際どいものばかりだ。冷凍保存された死体にある物質を注入することで、生前最も印象に残っている行動を再現させる、といった件は、その最たるものであろう。誰も思いつかないような発想から成る発明品のディテールが、その後語られる由来の物語と、ともすれば強引に近い形で結びつけられる様は、探偵小説を読むのに似た感すら受ける。「奇妙な味」の作品が好きな方にとっては、大変面白い小説なのではないだろうか?

押井守監督作品「イノセンス」DVDジャケット

 ついでに、押井守監督作品「イノセンス」について。この作品は前作「ゴースト・イン・ザ・シェル」の後日談に当たるものであるが、筆者的には前作よりも本作の方が気に入っている。新聞の評等で、「引用句が多く理屈っぽい」と評された同作品であるが、場面毎に新旧様々な引用句が、数多く登場する。作品中に登場する「生死去来/棚頭傀儡/一線断時/落落磊磊」もその一つで、これは世阿弥からの引用だ。その余りにマニアック過ぎる内容に、賛否両論ある作品だが、台詞ひとつにこだわりまくった同作品は、ある意味「私は一行一行に血を流します。」と言ったレーモン・ルーセルを感じさせる。

 合掌!


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