■ コアメモリ・パッケージ ■


コアメモリ・パッケージ基板(表面)

コアメモリ・パッケージ基板(表面:ガードを外したところ)

コアメモリ・パッケージ基板(裏面)

                                    
 東北金属(Tokin)製64Kbitコアメモリ・パッケージ、MCMPI
である。コアメモリとは、半導体メモリが普及する以前に、コンピュータの記憶
素子として用いられていたものだ。今でこそDIMM基板1枚で512MBの容
量を持つ製品が一般的使われているが、その昔、メモリは非常に高価で容量も情
けないほど小さかった。                         

 フォン・ノイマン指導のもとに製作されたIASコンピュータは、1952年
に稼動を開始しているが、このマシンには40本の陰極線管遅延装置がメモリと
して使用されていた。また、ENIAC開発者のエッカートとモークリーが作成
したUNIVACコンピュータには、水銀槽を使用した音響遅延装線記憶装置が
メモリの役割を果たしていた。コアメモリはこれら太古の記憶素子よりは集積化
されているものの、現在使用されている半導体メモリとは全く異なる方法で情報
を蓄えていたものである。                        

 ここに掲載したコアメモリ・パッケージは、おそらくNEC製のメインフレー
ムに搭載されていたもののようである。1枚の容量は64Kbit。カードエッ
ジコネクタを介して、必要な容量分だけスロットに挿入して増設できるようにな
っている。基板裏面には、下記の銘版シールが貼付されている。       

  MCMPI                             
  コアメモリ パッケージ                       
  SERIAL.2220                       
  DATE.1974.09.10                   
  Tohoku Metal Industries,Ltd.       
基板裏面に貼付された銘版シール

カードエッジコネクタ部分の配線

                                    
 コアメモリ部分は、アルミ製のガードで覆われている。ネジを外してガードを
取ると、6×6のマトリクス上に配置されたメモリブロックが現れる。コアメモ
リは縦横に規則正しく並んだ配線上に、非常に細かいフェライトコアのリングを
配置したもので、遠目に見るとまるで織物細工のようである。フェライトコアの
形状は、直径0.3〜1.5mm程度のドーナツ状で、このコア1個につき、縦
に1本、横に2本の電線が貫通している。フェライトコアは、電線に流れる電流
の向きにより、磁化の方向が異なる。コアに右回りの磁束が生じているか、左回
りの磁束が生じているかを数字の「0」と「1」に置き換えて、情報を記憶する
のがコアメモリである。                         

 本コアメモリパッケージの基板の大きさは28×15cm。このうち、メモリ
部分の大きさは18.5×9cm程度となっている。カードエッジコネクタ部分
は、24Pinの端子のものが3つ並んでいる。コネクタから基板内部へ向う配
線は非常に細かく、髪の毛よりも細い線が2本より合わされて接続されている。
ここまでくると、工芸品的な出来栄えだ。基板上には下記の捺印がある。   

  AE−2371−30P No.4                  
  Tokin Rev27.                      
コアメモリブロックへの配線

より合わされた電線のアップ

                                    
 メモリブロックの外周には、配線をマウントするための細かいらせん状のパイ
プが配置されており、それぞれの配線はこのマウントから内部に向って張られて
いる。メモリブロックは、カードエッジ側がY軸、それと垂直方向がX軸となっ
ており、X,Yのマトリクスで座標を決め、アドレスとしているようだ。Y軸側
は、1,3,5,7の奇数ブロックと2,4,6,8の偶数ブロックに分離され
ており、それぞれのブロックに、NEC製14Pin DIPパッケージの  
μPA44Dがバッファとして入っている。X軸側も同様に8つのブロックから
構成され、それぞれにバッファICが搭載される。なお、DX9、DY9の2つ
のバッファは、これとは別に設けられているが、これはパリティビットを表して
いるものと思われる。                          

 上述したように、コアメモリは6×6のブロックに仕切られており、それぞれ
のブロックへは非常に細かいワイヤーが接続されている。X軸方向の配線は、 
X00〜X63までの64本、Y軸方向の配線は、Y00〜Y63までの64本
で構成されている。                           

 フェライトコアそのものは肉眼では見えにくい。ルーペで拡大すると、小さな
リング状のコアが、縦横に施された配線の交点に斜めに取り付けられているのが
確認できる。本当にこのようなもので情報を記憶できたのか、思わず疑ってしま
いたくなるようなデバイスだ。                      

X軸方向の配線に設けられたバッファIC

Y軸方向の配線に設けられたバッファIC

フェライトコア部分のアップ

                                    
 最後に、このコアメモリ・パッケージと同じ容量を半導体メモリチップで構成
したらどうなるか?を示しておく。下記に掲載した写真は、日立製SRAMチッ
プ、HM6264LP−12である。1985年03週の製造で28PinのD
IPパッケージ。このSRAMの容量は                  
64KBit=65536bit=8192byte=8Kbyte     
となっており、このコアメモリパッケージと同じである。掲載したSRAMチッ
プはかなり古い製品であるが、今となっては64KbitのSRAMなど、余り
にも容量が小さすぎて残っていなかったためだ。とにかく、巨大な基板に繊細な
細工で構成したコアメモリは、この35mm×12mm程度のプラスチックの塊
に収まってしまったということだ。                    
このコアメモリと同容量のSRAMメモリチップ



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