LC-8620は、数ある謎ぱ~の中でもとりわけ個性的なというか変態的なアーキテクチャーを有する製品であった。まず、搭載CPUには、他のマシンで一般的に用いられていたIntelの8086や8088を採用せず、Chips & Technology製のF8680A(7/14MHz)を搭載している。このため、処理速度的には、80286相当の実力を有する反面、日本語化に際しては、廃人たちの多大な努力が必要となってしまった。
さらにマシン本体にHP製の1.3インチHDDであるKittyHawkを内蔵し、40MBという当時のパームトップPCとしては破格のストレージ容量を実現していた。たかだか5MBのPCMCIAフラッシュメモリーカードでも極めて高価だったことを考えると、この「大容量」HDDの搭載は、ユーザーにとって大きな魅力であった。
LC-8620が市場に登場した正確な時期は不明だが、おそらく1994年頃だと推測される。筆者は、同年の秋にラスベガスで開催されたCOMDEX Fallのサンズ会場内に設けられたLexicompのブースで、本機に韓国版や中文版のWindows3.1を搭載したデモンストレーションを見て、痛く感動した記憶がある。発売当初の価格がかなり高価だったこともあり、残念ながら日本での知名度は低かったが、このトンガッたマシンには、他の謎ぱ~にはないオーラを感じさせるものがあった。
今回の前フリには、太古のXT互換機「MUGEN」を取り上げた。1984年頃に発売されたPC/XT互換機で、Microvoice Corporationという会社の製品である。ポータブルパソコンと称していたが、8インチCGAグリーンモニターを内蔵した筐体の外形寸法は、ほとんどミニタワーケースほどもあるものだった。これが当時のモバイルコンピューターの姿だったのである。ネットオークションで入手した機体には、ストレージとして360KバイトのFDDが2基搭載されているだけであった。この容量では、とてもDOS/C化は不可能だったので、英語環境で動作する柴隠上人稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏作成の簡易日本語エディタのPEDを用いて日本語を入力するしかなかったが、小さなグリーンモニター上に、かな漢字の文章が表示されるのは、なんとも言い難い奥ゆかしい風情があったものだ。