■SANWA PRECISA GS−12 三和プレシーザ株式会社製造の12桁ニキシー表示管電卓、GS−12であ る。製造年は既出のM−12よりも前と思われるが、残念ながら本体外部、内 部には製造年月を示す表示はどこにもなく、不明。使用しているデバイスがD TLによるSSIであること、またチップの集積化が進んでおらず、基板も複 数枚から構成されているところから判断すると、おそらく電卓専用シングルチ ップLSIが出現する前、1968年〜69年頃の製品であると思われる。ま た、この電卓の銘版は剥がれ落ち紛失しているため、シリアル番号等も不明で ある。 本体はかなり大きく、31×25×10cm程度。ひとかかえほどの大きさ がある電卓だ。表示は12桁で、M−12と同様表示部分に蓋が付いている。 M−12では電源が蓋に連動していたが、GS−12では電源スイッチは別と なっており、蓋の意味はあまり無い。小数点表示桁数はダイアルで行う古風な タイプで、0、2、4、6の4種類が設定可能となっている。
電源を投入すると全桁0が表示されるのだが、表示が完了するまでに、実に 3分程度かかる。1分程度でほぼ全ての桁が0リセットされるのだが、なぜか 3桁目だけがなかなか点灯せず、3分近くかかってしまうのだ。マイコンチッ プによる制御であれば、このようなことは起こらない。初期のワイヤードロジ ック電卓には良く見られる傾向である。表示はレトロ感覚溢れるオレンジ色。 0はカシオ製品で良く見受けられる、いわゆる「下付きの0」表示となってい る。なお、本体裏面には、下記の注意事項が貼付されている。 -------------------------------------------------------------- お ね が い ●電子式卓上計算機ご愛用の皆様へ すべての電子式卓上計算機は、集積回路(IC・MOS・LSIなど)を使用 しているため、0℃以下の低温または40℃以上の高温の場合には、 機能が正常にはたらかないことがあります。これは故障ではなく電子 式卓上計算機の特性からくる一時的な不良で、機械内が使用温度(0 ℃〜40℃)にもどりますと機能も正常となります。 たとえば ●表示間の一部または全部の点灯が遅れる、または点灯 していない。 ●数字キーを押しても表示管に数字が出ない。 ●数字キーを押すと、違った数字が出る。 などの場合は10〜20分程お待ちになってから使用してください。 なお低温の場合は、スイッチを入れて、高温の場合は、スイッチを切 ってお待ち下さい。(10〜20分経過しても不良の場合は、最寄の 営業所・サービスステーションにご連絡ください。) --------------------------------------------------------------
本体内部は、上半分に蛍光表示管表示部とロジック基板を、下半分にキーボ ードを配した構造となっている。ロジック部分は4枚の基板で構成されており それぞれの基板はシステムバスによって接続されている。ダイオード・トラン ジスタ・ロジック(DTL)を使用したSSIデバイスのために、部品点数は 非常に多く、1枚の基板には収まりきれなかったためである。使用しているデ バイスの詳細は、基板ブロックの分解が困難であったために不明であるが、隙 間から覗くと、16ピンのセラミックパッケージICが多数並んでいるのが見 て取れる。基板はベークライト製。ロジック基板上には37017、3749 0といった捺印が見られた。 蛍光表示管表示部の上には電源ブロックがある。電源基板上には、120、 −70、5、−19といったシルク印刷がされており、おそらく内部で作られ ている電圧表示と思われる。電源部分のには、36105、EDC−211− 5D−UMの捺印があった。 12本の蛍光表示管は基板に直接ハンダ付けされており、各チューブはメタ ルのフレームで固定されている。蛍光表示管は長さが3cm程度もある細長い もの。これが12本も並んでいるのだから、結構な迫力である。初期のニキシ ー管と異なり、7セグタイプの表示ブロックをガラス管に封入したタイプのも のとなっている。パイロットランプとマイナス符号表示には、ネオン管が単独 で用いられている。蛍光表示管搭載基板には、36192、ED−211−4 B−UMの捺印が見られた。蛍光表示管の足の部分には、所々ショート防止の ためのエンプティーチューブが使用されており、アッセンブリには多大な手間 がかかっていたものと思われる。
キーはコクコクとしたタッチのしっかりしたもの。磁石リレー式の接点を使 用している。小数点表示設定ダイアル部分はロータリースイッチを使用してお り、1本1本リード線を半田付けして組み立てている。 プレシーザGS−12は、電卓がディスクリートロジックからワンチップ LSIへと進化する過渡期の製品であった。ICを使用し、必死になって部品 点数の削減を行ってはいるが、それでもまだ4枚の基板をバス接続するくらい の回路規模になってしまっている。この後数年で、ほとんどの電卓は1チップ 構成に以降してしまう。これだけ複雑な回路設計が必要であったものが、1〜 2年の製品寿命しか持てなかったというのは、やはり悲劇といえるであろう。 進化の程度は、現代のパソコン以上に感じられる。