■SHARP QT−8D(Micro Compet) SHARPの電卓と言えば「エルシーメイト」を思い浮かべる方も多いと思う が、初期のブランド名称は「コンペット」であった。SHARPが初めてコン ペットブランドの電卓を発売したのは、実に昭和39年のことだと言われてい る。ここに掲載する機種は、SHARPが1969年(昭和44年)に発売し た画期的な電卓、QT−8D(Micro Compet)である。1969 年といえばアポロ11号が人類史上初の月旅行を行った記念すべき年である。 そのため、このQT−8Dの宣伝文句は「アポロが生んだ電子技術、生まれま した電子ソロバン」と言うものであった。なお、発売当時の価格は、9万8千 円であったそうだ。 当時、SHARPはアメリカのロックウエル社に電卓用LSIの製造を依頼し ていた。ロックウエル社は、当時最先端技術であったMOS−LSIを製造し ており、このコンペットQT−8Dにも4相レシオレスMOS−LSIが使用 されている。そのため、QT−8Dでは大幅な消費電力と部品点数の削減が実 現できた。
QT−8D本体は、カシオのAS−8Dと同様に細長いプロポーションとなっ ている。大きさは、幅13.5cm×奥行き24.5cm×高さ7cm程度。 「電子立国日本の自叙伝」を読むと、QT−8Dでは本体重量で1/6、厚さ で1/3、価格で1/5を実現したそうだ。これを見てもわかるように、小型 化という点では画期的な商品であったと言えるだろう。 特徴的なところは、演算キーの「×」と「÷」とが同一キーとなっている点で ある。例えば「2×3=6」といった演算を行うには、「2」「×÷」「3」 「+=」と値数すれば良い。同様に「6÷2=3」を実行するには、「6」「 ×÷」「2」「−=」となる。キーの数を省いた巧妙な方法であると言えるが 今となってはわかりにくい。 QT−8Dの裏面には、「シャープ株式会社 産業機器事業部 肥田 上田」 との検査証と、「ISOメートルねじ使用」というシールが添付されている。 また、このマシンは持ち運びを考慮し、収納式の取っ手が付いている。本体背 面の銘版に刻まれたシリアル晩後は「0138997」となっていた。また、 QT−8Dの消費電力は全体で7Wとなっている。
次にQT−8Dの内部構造を見てみよう。写真6は、本体筐体を開けたところ である。一見して非常に部品が少なく、集積化が進んでいることがわかる。 写真7は、本体ロジック基板のアップ。ただし、基板全体が写っているわけで はない。ここに、シャープがロックウエル社へ製造を依頼した、Pチャンネル MOS−LSI4個が並んでいる。それぞれのLSIの用途は「入力」「演算 」「記憶」「表示」となっており、これら4個のLSIの消費電力は2mAと のことである。この写真には写っていないが、奥に同期信号生成用LSIが1 個実装されている。メインとなる4個のMOS−LSIの捺印は下記の通り。 NRD2256−7030 DC2266−7028 AC2261−7030 AU2271−7029 どのLSIも丸いメタルキャップが付いた古風なセラミックパッケージで、キ ャップ部分にロックウエル社の捺印が押されている。なお、基板内部には72 30と書かれたシールが添付されていた。おそらく1972年30週に製造さ れたものと思われる。表示管の前には、ドライバ用トランジスタと思われる日 立製2SA549が12個並んでいる。また、基板上には436−PCBC9 のシルク印刷がある。
写真10はキーボードメカ部分のアップ。キークリック感は、コクコクとした 感じで、ストロークも深い。業務用途にも耐えられるよう、かなり叩きつけて も壊れる心配はなさそうだ。