■Panac Model JE−800 ポケットタイプもそうだが、パナソニックはデスクトップタイプでもPana cブランドの電卓を発売していた。Panac Model JE−800は 1972年に製造された、8桁表示のデスクトップタイプのごく初期の製品で ある。非常に美しい形をしており、工業デザインの傑作の部類に属するのでは ないかと思われるほどだ。 電卓上面は、表示部分、数値キー部分、アームレスト部分のそれぞれが異なっ た角度の傾斜を持っており、まるで流れるようなデザインとなっている。キー も今どきの電卓には見られない楕円形の珍しい形。キーボードパネルがつや消 しの黒、側面と背面部分がアイボリーで、表示部分の上方にアルミパネルを施 すという配色も、いかにも70年代の製品らしい。キーの左側には、小数点表 示を制御するためのレバーがあり、F、0、2、4が選択できるようになって いる。ACで使用する場合には、専用の電源コードが必要だ。この電卓の電源 コードは着脱式になっている。
本製品は、AC電源の他に乾電池駆動も可能だ。昔の製品なので、消費する電 力は3Wと非常に大きく、電池駆動の場合には単二乾電池(UM−2D)を実 に4本も使用する。電池室は本体底面後方に位置している。単二乾電池を2本 ずつ、付属するプラスチック製のパイプに入れてから本体に搭載するという、 凝った仕掛けになっているが、これは電池室の奥行きがかなりあるので、電池 を取り出しやすくするための工夫であろう。 表示は各桁ごとに分離されている蛍光表示管9本から構成されている。数字は 7セグ表示となっており、後期型の蛍光表示管が採用されている。残念ながら 本個体は電卓機能が故障しており、「0」しか表示されない。本体のシリアル 番号は電池室内部にシール貼付されており、2500428となっていた。 本体裏面には、下記の注意事項が本体ボディーにエンボス文字で記載されてい る。 注意! 感電防止のためカバーケースは あけないでください。修理は必ず専門サービス 員におまかせ願います。 注意! ふたを開ける時は必ず 電源コードプラグを抜き取って下さい。 古い製品であるにも関わらず、本体内部の構成は意外とシンプルだ。メインと なるLSIはTI社製のTMS0101NS。40ピンDIPタイプのLSI で、72年13週製造の捺印がある。電卓の基本的な機能はすべてこの石に収 められているが、さすがに表示部分である蛍光表示管のドライブ回路までは内 蔵されていない。そのため2SA749を30本使ったドライブ回路がLSI の外部に実装されている。9本の蛍光表示管は、メタルフレームにマウントし た状態で実装されている。足は基板に直接ハンダ付けされており、製造にはか なりの手間がかかったものと思われる。蛍光表示管の背後には、電源回路が搭 載されている。基板はガラスエポキシ製となっている。この他に、2SC 828トランジスタが2本使用されていた。 キーボード部分はプリント基板で構成されており、メカの詳細については見る ことができないが、タッチと音から判断すると、磁石によるリレー方式を採用 している。キータッチはコクコクとして非常に押しやすい。キーボード基板と メイン基板との間は、おそらく手作業でハンダ付けされたと思われる配線で結 ばれており、非常に手間がかかっている。ケース内部には、047207の捺 印があった。
さて、この電卓は保存状態が極めて良く、ケースはもとより同梱されていた取 り扱い説明書まで残されていた。取り説はいかにも70年代の製品らしい。当 時この製品は「電子ソロバン」の愛称で販売されていたようである。定価は 49,800円。なお購入店名欄には、下記の記載があった。このタイガー電 器という会社が、タイガー計算機とどのような関係にあるのかは不明である。 日本タイガー電器株式会社 西店営業課 高槻市下田部町1丁目20番26号 カタログの日付けは72年1月。裏面に登場するモデルの女性は、服装といい 髪形といい、まさに1970年の万国博覧会的ファッションで、大変懐かしい 感じがする。可搬性を重視した製品らしく、専用のプラスチックケースも用意 されているが、このケースの色がまた、寝ぼけた水色で郷愁を誘う。内部は、 本体と付属の電源ケーブルを収納できるようになっている。 本製品は、電卓が現在のパソコン並み、もしくはそれ以上の価格であった時代 のものであるが、そのデザインは現在でも十分通用するほど優れたものだ。同 じ素材を使用しても、コスト最優先の現在では、とてもこのような気品のある 製品は作れないであろう。ある意味工芸品的な雰囲気を持つ逸品といえる。