■SANYO サコム Model ICC−1211 三洋電機株式会社初期の電卓、サコム ICC−1211である。外形寸法 30×20×9cmという巨大な電卓で、電源トランスを内蔵しているため重 量もかなりある。本機は極めて珍しく、ほとんどデッドストック状態で保存さ れていた。 ケースのデザインは、70年代スペースエイジそのもので、どことなくシャ ープのコンペットシリーズを思い浮かべてしまう。そういえば、赤と青のポッ プな配色を施されたキーボードも、コンペットと良く似ている。残念ながら、 本体には製造年月日を示す表示が一切無く、いつ頃の製品であるのかは不明。 内部構造等から判断すると、1972年〜74年頃のものと思われる。仕様的 には12桁の四則演算電卓であり、特に特徴といったものは無い。メモリ機能 を内蔵しており、小数点はレバーにより0,2,3,4,6に設定可能。この 他に、定数乗除算を行うための定数スイッチ(K)と、積和差、商和差を求め るためのシグマスイッチ(Σ)が付いている。
表示は7セグメントタイプを1桁ずつガラス管に封入したタイプのニキシー 管。蛍光表示管としては後期タイプのものである。発光色はオレンジ。マイナ ス符号は、専用のネオン管で表示するようになっている。 電源コードは本体から直接出ており、取り外しはできない。定格は14W、 シリアル番号はT206985Cとなっていた。本モデルは、ICCという型 番からも想像できるように、ICを使用した電卓である。ディスクリート部品 を多く使用していた当時としては、ICを使った電卓はまだ珍しかったものと 見え、上部のロゴにも「IC」の文字が記載されている。この電卓には、親切 にも使い方を示した紙のパネルが付いていた。このパネルを電卓上部に置くこ とで、各キー操作の説明を見ることができるのだ。しかし、電卓に説明など、 不要にも思えるのだが。。。。。 構造的にはマイコンによる制御を行っていないため、電源をONにすると、 最初は全桁の蛍光表示管に、わけのわからない数字が表示される。よって、電 源ON時には、オールクリアキーを一回押してリセットをかける必要がある。 このあたりの仕様も、初期の電卓に良く見受けられるものである。
内部構造はかなり壮絶である。内部は蛍光表示管表示部分、ロジック部分、 電源部分およびキーボード部分の4つから構成されている。いずれの基板も、 ベークライト製だ。一番下に位置するロジック部分の基板を見て驚いた。基板 の上に11枚のサブボードとも呼べる基板が実装されているのだ。それぞれの サブボードは、高さ約15mm、長さが約12cmの細長い形をしており、基 板上にはダイオードと抵抗がこれでもかというくらいに実装されている。すご いことに、これらのサブボードは形も不ぞろいなのだ。つまり、ひとつひとつ 手作りで切り出して実装されているもののようだ。ボード間には配線用のワイ ヤが飛び交い、一見すると実験室のバラックモデルのようにも見える。 サブボードがマウントされているロジック基板のメインボード上には、両側 に14PinのICが配置されているのだが、このICの上にも抵抗が実装さ れている。実装状態を見るに、どうやらプルアップないしはプルダウンのため の抵抗と思われる。集合抵抗があれば、このようなアクロバチックなことをや らずに済んだものを。。。なお、実装されているICは、三菱製M5811、 NEC製μPD101C等が使用されていた。 ロジック基板のコネクタ近くには、無数のダイオードがマウントされている のだが、これらのダイオードの一つ一つに、ノイズ除去用のビーズが付けられ ているという芸の細かさも見受けられる。これは、果たして量産された製品な のだろうか?それとも、当時の製造技術では、これが一般的なものだったのだ ろうか?いずれにせよ、人知を超越したような手間がかかった構造になってい るのだ。
蛍光表示管表示基板上には目に見えるだけで5個のICが実装されている。 NEC製のICの捺印に「K07576」という文字があった。これは 1975年〜76年にかけて製造されたということであろうか?なお、確認で きたICの型番は、下記の通り。 三菱製 M5811 16Pin DIP ×1個 三菱製 M5812 16Pin DIP ×3個 NEC μPD101C 14Pin DIP ×1個 蛍光表示管の前にはNECのトランジスタ2SA539とコンデンサ、抵抗 ダイオードから構成された回路が、12組整然と並んでいる。蛍光表示管は管 の高さが4cm、文字の大きさが12mmの、比較的大きめのもので、7セグ メント表示タイプのものである。管の中には電極のメッシュがはっきりと見受 けられる。 キーボードはクリック感の無いタイプで、マグネットスイッチを使用したも のだ。キーボード裏面を覆うカバーには、「注意:サービスの時、スイッチの マグネットに鉄粉やビス等が附着しない様に注意して下さい」とのシールが添 付されていた。 サコム Model ICC−1211は、そのスマートな外観からは想像 ができないほど複雑な内部構造を持った電卓であった。販売価格も、おそらく 非常に高価であったものと思われる。そのためか、本体には防塵カバーも付属 しており、高価な電卓の保存にも気を使っていたことを伺わせる。