■TOSHIBA HOMELAND 1212S 東芝ビジネスマシン株式会社が発売した12桁電卓、HOMELAND− 1212Sである。東芝ビジネスマシン、すなわちTBMとは、なかなか仰々 しい名前だ。そういえば、コモドールビジネスマシン(CBM)という名称も あった。この頃はIBMに限らず、○○ビジネスマシンと命名することが流行 っていたのかもしれない。冗談はともかく、実はこのマシン、既出の1211 と同様、東京電子応用研究所が製造した電卓「ティール(TEAL)」が東芝 へOEM供給したものと考えられる。 TEAL(ティール)社については、HOMELAND 1211の項目で も解説したが、昭和43年に電子機械振興協会卓上電子計算機分科会会長が、 タムラ電子の後援で設立した会社であった。電子立国日本の自叙伝によれば、 MOS−ICの導入により部品点数を削減し、またコンデンサメモリの搭載に より、安価な電卓を供給していたということである。国内では、キャノン、東 芝、日立へOEM供給を行っていた。末期の激戦で、国内の電卓メーカーは相 次いで倒産に追い込まれたが、TEAL(ティール)社はこれら一連の淘汰の 最終期、昭和53年1月に倒産した。最後の電卓倒産メーカーだと言われてい るそうである。 外寸は20×20×7cmの正方形で、ボタンは丸型。しかも赤、緑、青、 グレーとポップな配色となっており、いかにも70年代デザインといった感じ である。表示はオレンジ色の12桁FIPを採用しており、マイナス符号とメ モリ、オーバーフロー表示はネオン放電管で行っている。1211と兄弟機で あるのにもかかわらず、1212Sのデザインは全く異なったものとなってい る。1211のコストパフォーマンスをアップし、デザインをより洗練させて 拡販を図ったモデルと思われる。
写真4:TOSAHIBA HOMELAND 1212S 本体側面 |
写真5:TOSAHIBA HOMELAND 1212S 本体背面 |
写真6:本体裏面にある銘版のアップ |
機能的には四則演算と√、メモリーが搭載された一般的なもので、小数点制 御はレバーによりF、0、2、3、6の設定が可能だ。本体裏面の銘版では、 定格7Wとなっている。また銘板には「TEAL」の文字が見受けれれる。本 体のシリアル番号は872710となっていた。電源はACのみで、電源コー ドは取り外し可能。電源コネクタは、アース端子付きの一般的なものである。 本機の正確な製造年は、本体に記載が無いため不明。しかし、その内部構造 と使用デバイスから、既出の1211と同様、1973年(昭和48年)頃の 製品だと思われる。なお、この電卓はどこかにデッドストックされていたもの のようであり、使用された形跡が全く無い。また簡単ではあるが、取り扱い説 明書も付いていた。取り説によると、東芝ビジネスマシン株式会社は、東京都 中央区銀座3−2−10 並木ビルに入っていたようである。
内部構造はワンチップ化こそされていないものの、使用デバイスも少なく非 常にすっきりとしている。メインとなるチップは三菱製のMOS−ICで、 24Pinのセラミックパッケージ3個が使用されている。このほかに、 16PinプラスチックパッケージのICが1個と、おそらくFIPドライバ と思われるモジュールが1個搭載されている。使用デバイスは下記の通り。 三菱 M8605B 2320 三菱 M8604−01B 232P 三菱 M8603B 2137 三菱 M58602−81P 1413 不明 IC6286 73Y 上記IC群の他に、2SA495×2個、2SC372×3個、2SC730 A×1個が使用されていた。これらの部品構成は、1211とほとんど同一と なっており、1211と1212Sとは極めて短期間の間にリリースされたも のと思われる。基板はベークライト製。FIPはモジュール化されている。キ ーボード基板上には、OEM供給元を示す「TEAL」の捺印が見られる。