■Frontire 2100
工業デザインとしては極めて良くできている1972年製造の電卓、フロン
ティア(Frontier)2100である。表示桁数は12桁のFIPを搭
載。基本的な四則演算機能に徹したシンプルな作りではあるが、丸型のキーや
グレーを基調としたカラーリング、マイナスキーのみを赤にする演出など、
1970年代のスペースエイジを代表するデザインといっても過言では無いで
あろう。メーカー名はFrontireとしか記載されていないため、詳細は
不明であるが、裏面に貼られた銘版を見ると、まぎれもない日本製の電卓であ
る。しかし、本体内部を開けてみると本製品はEIKO BUSINESS
MACHINE社が発売していたUNITREXのOEM商品であることが判
る。本体内部の基板上には、UNITREX 1200−4Cの捺印が記され
ている。そう言われると、既出のUNITREX 1201Mと、外観や形も
どことなく共通するものがあるように思えてくる。
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写真3:Frontire 2100 本体正面 |
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写真4:Frontire 2100 本体側面 |
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写真5:Frontire 2100 本体背面 |
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写真6:Frontire 2100 本体裏面 |
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写真7:本体裏面の銘版のアップ |
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写真8:電源コネクタのアップ |
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写真9:キーボードとロゴのアップ |
電源はAC100Vで、電源ケーブルは取り外しが可能なタイプ。電源コネ
クタは3Pの専用品が使用されている。銘版によると定格は7Wでシリアル番
号はD37E57029となっていた。本体外側を見ただけでは、メーカー名
OEM供給元等の情報は一切不明である。本体の外寸は24×19×6cm。
仕様的には四則演算のみのベーシックなタイプで、メモリ機能すらも搭載さ
れていない。小数点制御は0,2,3,4がレバーで設定できる。FIP表示
はオレンジ発光の12桁タイプで、マイナス記号はネオン放電管によって行わ
れる。
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写真10:本体内部構造 |
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写真11:ロジック基板のアップ |
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写真12:MOSTEK 社製 MK5011P LSI のアップ |
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写真13:メイン基板上に捺印されたUNITREXの印刷 |
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写真14:FIP表示 |
内部構造は非常にシンプルだ。これはメイン演算用LSIとして、MOST
EK社のMK5011Pを搭載しているためである。MOSTEK社の石を採
用したため、当時としては極限的に集積化できた製品だった。このLSIは
40Pinのセラミックパッケージで、一昔前のマイコンチップのような外観
をしている。製造は72年52週。LSIを交換できるように、ソケット実装
されている。MOOSTEK社のLSIはプログラマブルなので、差し替える
ことにより仕様面を容易に変更することが可能だった。
なお、UNITREX 1201Mでは同じMOSTEK社のMK5013
P、MK5014Pの2個を使用していた。またSANWA PRECISA
M−12(三和プレシーザ M−12)では、MOSTEK社の代表作であ
る MK6010が搭載されていた。
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写真15:製品名ロゴのアップ |
集積化が進んでいるため、本体内部にはメインLSIの他に目立ったチップ
は無い。ただ、MOSTEK社のLSIにはFIPドライバが内蔵されていな
いため、これらは外付けのモジュールで対応している。搭載されている主なデ
バイスは、下記の通り。
MOSTEK MK5011P メインLSI
ROHM RN1604
IC 5312
IC6259
IC6225(×2個)
2SA719
基板上、一見ハイブリッドモジュールのように見えるものは、実は単なる集
合抵抗だ。キーボードは多少カチャカチャしたタッチのクリック感が無いタイ
プであるがメカには磁石を使用したリレーが用いられており、信頼性は高い。
FIPは完全にモジュール化されており、本体基板とはコネクタで接続されて
いる。電源部分はこの時代の製品としては極めてシンプルにまとまっており、
トランス内蔵型の電卓としては軽いほうだと言えよう。
このFrontire 1200もそうであるが、三和プレシーザやUNI
TREXにもMOSTEK社のLSIが搭載されていた。これを見てもわかる
ように、当時同社のLSIがいかに先進的でコストパフォーマンスの高いもの
であったかが伺われる。