■SHARP ELSI−8M(Model EL−8M) SHARPは1969年にMicro Compet QT−8Dを発売し た。この電卓は、アメリカのロックウエル社に電卓用MOS−LSIの製造を 依頼し、大幅な消費電力と部品点数の削減を実現した画期的な製品であった。 その後、さらなる小型化が行われ、ここに掲載したAC/DC 2電源方式の 小型電卓、ELSI−8M(Model EL−8M)が発売される。QT− 8Dが発売されたのが1969年のことであり、ELSI−8Mは、その2年 後の1971年に発売されている。内部構造は、QT−8Dと同様ロックウエ ル社の電卓用LSIを4個使用したものであるが、同じ型番の石は2個のみで あり、残りの2個は異なったものが搭載されている。
写真4:SHARP ELSI-8M 本体背面 |
ELSI−8MはQT−8Dをさらに小型化した8桁電卓である。本体は表 面積こそ小さいものの、かなり分厚い独特なプロポーションとなっている。こ れは、表示装置の蛍光表示管の下部にニッカドバッテリーを搭載しているため である。表示桁数は8桁で、エラー・アラーム・マイナスの各表示は別個に設 けられたネオン放電管で行われる。 キーボードは他のCOMPETシリーズと同様コクコクという感触のしっか りしたもので、キートップに赤や青を配色する点も同様である。本体の外寸は 18×10×7cm。ACアダプタ入力端子は、専用の特殊形状のものが用い られている。本機はACアダプタが欠品しているため、動作確認は取れていな いが、ニキシー管表示を見ると数字のフォントにはシャープのCOMPETシ リーズ特有の、あの独特の形状のものが採用されている。本機のシリアル番号 は1022127番。銘版による定格は8.7V/1.3Wもしくは9.6V /1.9Wとなっていた。
写真5:SHARP ELSI-8M 電源スイッチ周り |
内部構造は、バスで相互接続された2枚の基板とキーボード基板の3枚が重 なったような構成となっている。バスで接続された基板のうちの1枚はロジッ ク制御基板で、ロックウエル社に依頼したMOS−LSIが搭載される。もう 一枚はニキシー管表示制御用である。ロジック制御用基板には、QT−8Dと 同じ形状であるロックウエル社の42PinセラミックLSIが4個と、メタ ルキャンのICが1個搭載されている。使用デバイスの型番は下記の通り。 ・NRD2256 7115 * ・DC1152A 7124 ・ACM1156A 7124 ・AU2271C 7123 * ・CG1121 7120 上記のうち、(*)印が付いたLSIはQT−8Dにも搭載されていたもの である。これを見ると、いずれのLSIも1971年の前半に製造されたこと がわかる。バスコネクタの部分には1022127の捺印と1645791の シールが貼付されている。
表示部分は8本の蛍光表示管と1個のネオン放電管から構成される。この表 示装置の後ろ側には、7.2V(450mAh)のニッケルカドニウム充電池 6本入りパックが実装される。そのため、この部分のケースの厚さは7cmに も達しており、独特の存在感を演出している。電源スイッチはAC/OFF/ DCの切り替え式で、ACアダプタを使用するか、内蔵のニッカド電池で駆動 するかを切り替えるようになっている。 本機は取り扱い説明書、保証書、本体を磨く際に使用するシリコンクロス、 本体ケース等、すべてそろっているデッドストックであったが、残念ながらA Cアダプタのみが欠品していた。面白いことに、取り扱い説明書の一番最後に は、「シャープコンペット盗難保険」申し込み書が貼付されている。これは、 製品の購入後2週間以内に葉書で登録を行えば、1年間以内に本体が盗難にあ った場合、警察に届け出を出したものに限り、同じ製品を無料で提供してもら えるというものである。電卓が高価であった時代を反映させる保障であると言 えよう。なお、盗難保険の送付先は下記のようになっていた。 〒130 東京都墨田区石原2−12−3 シャープ(株) 産業営業本部営業企画部 「シャープ コンペット盗難保険」係 行 ACアダプタのみが欠品しており、保証書等は無記入で保存されていること から類推すると、販売店の顧客サービスの一環として、ACアダプタの初期不 良交換もしくは紛失したものの代替用として使用されたものと思われる。