■SHARP COMPET CS−242 古典的なニキシー管を使用した14桁電卓、COMPET Model CS−242。シャープのコンペットシリーズといえば、既出のように特徴あ るフォントを使ったニキシー管表示が有名であるが、本機種には広く一般的に 用いられてきた、オレンジ色のネオン放電発光型ニキシー管を使用している。 数字フォントもごくごく普通のものだ。CS−242の正確な製造年は、記述 が無いため不明である。しかし、本体内部に昭和49年(1974年)5月1 4日付けの修理履歴があり、その修理費用が無償となっていることから推定す ると、おそらく昭和48年〜49年にかけて購入されたものと思われる。そこ で、ここでは製造年を昭和48年(1973年)としておこう。 本体の外寸は、29×33×9cmと非常に大きく、平べったいプロポーシ ョン。デザインは70年代のスペースエイジデザインそのもので、配色も落ち 着いており秀逸である。特にニキシー表示窓下側内部の、ゆるやかにカーブを 描く形状などは、他の製品では見られないものとなっている。キーはシャープ 製品特有のコクコクとした感触のもの。シャープ製電卓はキーボードが極めて 堅牢であるのが特徴となっているが、この個体は残念ながら2のキーが死んで 入力できなくなっている。 小数点の設定はレバーで行い、0,1,2,3,4,6,7,Fが設定可能 となっている。キーは古い電卓で良く使用されている磁石リレータイプで、「 ×」キーと「÷」キーには、内部にランプが入っており、押すと記号が光ると いうギミックが搭載されている。
本体背面には、ネジ留めされた謎のコネクタがある。カバーを外すと、10 Pのカードエッジコネクタが格納されていた。用途は不明であるが、おそらく 製品のチェック用、もしくはオプションとして用意されていたプリンタ等の周 辺機器への接続用と思われる。電源コードはシャープ製電卓に共通したものを 使用している。なお、本体のシリアル番号は、15025906、消費電力は 14Wとなっている。 本体内部の構造は、手前部分にキーボードメカを、奥に表示回路とロジック 基板および電源回路を配置することで、本体が薄くなるよう設計されている。 従って、ロジック基板が表示基板の下側に全て隠れてしまい、詳細な使用デバ イス名は判読できない。上述したように、カバー部分裏側には「シャープ事務 機器販売株式会社」が実施した修理履歴のシールが貼付されている。これによ れば、昭和49年5月14日に、表示が暗くなる件で無償修理を行っている。 修理内容は、トランジスタの2SC458、キーボード、「÷」キーランプを 交換したようだ。製品の無償修理期間が通常の1年間と考えると、この電卓は 昭和48年〜49年の間に製造されたものと考えられる。なお、修理履歴シー ルの右上には、昭和53年6月12日を示すゴム印があったが、これは何のた めの表示なのかは不明。
基板は表示部分とロジック部分の2枚構造となっており、バスによって接続 された構造となっている。ロジック基板部分を覗いて見ると、ロックウエル製 と思われる演算用LSIが6個実装されていた。これらは全て42Pinの ZIPタイプセラミックパッケージで、おそらくはSHARP QT−8Dで 用いられたMOS LSIと思われる。ニキシー管表示ドライブ回路には、下 記のトランジスタ類が実装されている。 2SA618 ×14 2SC857 × 3 2SC458 × 2 2SC180 × 3 μPD162C × 1 ニキシー管は数字14本+記号1本の、計15本構成。メタルのフレームで 固定されている。一番右側に搭載された管は、「T、U、V、E、−」を表示 するための特殊な管となっている。キーボードブロック基板には、「4321 −UNIT」、「1401476」のシールが貼付されていた。
独特の味のあるフォントを使用していたシャープが、なぜ一般的な表示のニ キシー管を用いたのかは不明である。12桁以下の電卓にはオリジナルフォン トを使用し、それ以上のものには通常のニキシー管を用いる、といった使い分 けをしていたのかもしれない。あるいは、オリジナルフォントがどうしても気 に入らないユーザのために、普通の製品も用意していた可能性もあり得る。 いずれにせよ、独自フォントの搭載により、クセが強くて昔のSF映画のよ うな雰囲気であったシャープの電卓も、一般的なニキシー管を採用すると、と たんにフォーマルな印象になってしまうのは不思議である。若干没個性的と言 えなくもないが、これはこれで良くまとまったデザインの電卓ではないだろう か?