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写真3:SHARP COMPET CS-221 本体正面 |
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写真4a:SHARP COMPET CS-221 本体側面 |
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写真4b:絶妙なラインを描く表示窓部分の造形 |
このCS−221は、内部基板の捺印から昭和46年(1971年)4月2
4日に製造されていることが判明した。この頃は、DTL(ダイオード・トラ
ンジスタロジック)のICから、MOSを使用したワンチップLSIへの以降
時期であり、デバイス面での急速な技術革新が行われていた時である。CS−
221では、まだマイコンによるワンチップLSI化は行われておらず、基板
上にはDTL ICと無数のダイオードが搭載されている。消費電力は約13
W、本機のシリアル番号は05791706となっていた。
表示はシャープお得意の独特な形をしたフォントを使用した緑色発光蛍光表
示管であり、12桁構成となっている。小数点位置は、レバー操作で0,1,
2,3,4,6に設定可能となっている。キーはシャープらしくクリック感の
あるしっかりした作りで、チャタリングは無い。電源コネクタは、これもシャ
ープ製品に多く見られる3つ穴タイプとなっている。
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写真5:SHARP COMPET CS-221 本体背面 |
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写真6:本体裏面銘版のアップ |
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写真7:本体上面ロゴのアップ |
内部は、電源部、ロジック部、表示部の3つの部分から構成されている。電
源部はケースの一番奥に位置しており、ロジック部と表示部の2枚の基板は、
積層上に配置され、バスにより接続されている。従って、下側に位置するロジ
ック部基板の詳細は見ることができない。一見して驚くのは、ダイオードと抵
抗の多さである。しかも、これらのディスクリート部品は、接触によるショー
トを防止するため全て絶縁チューブを被せられて基板に実装されているのであ
る。アッセンブリには恐ろしい手間がかかったものと思われる。
表示基板上には、「S46.4.26」の捺印と、「7386」と書かれたシールが
貼付されていた。表示基板はベークライト製で、三菱製16Pin DIP−
IC、M58205が3個と、日立製メタルキャントランジスタ2SA549
が11個、またニキシー管の裏側に、三菱製16PIN DIP−IC、M5
8201が7個搭載されている。
蛍光表示管は各桁がセパレートになっており、12桁+記号1桁の、計13本
構成。記号表示用蛍光表示管は「T」と「−」記号を表示する。蛍光表示管は
メタルフレームに固定されマウントされている。蛍光表示管の足も、全本数絶
縁チューブで覆われ基板に直にハンダ付けされている。
ロジック基板は、表示基板の下に隠れて良く見ることができないが、手前に
三菱製の24PinセラミックパッケージLSI、M58202と、16Pi
nのプラスチックDIP−IC、M58207が実装されているのがわかる。
この他、基板内部には16PinのプラスチックDIP−ICが8個ほど確認
できた。また、基板上には膨大な数のダイオードが実装されており、壮観であ
る。
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写真8:SHARP COMPET CS-221 本体内部 |
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写真9a:SHARP COMPET CS-221 蛍光表示管基板全景 |
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写真9b:表示基板のアップ |
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写真9c:表示基板とロジック基板のアップ |
本製品は、完全なディスクリート部品の時代から、マイコン制御によるワン
チップの時代に至る過渡期の製品となっている。MOS−ICによる集積化ま
でには至っておらず、バイポーラICと夥しい数のディスクリート部品とで構
成されている。マイコンによる制御がなされていない時代の製品だけあり、動
作的には若干面白い部分がある。例えば、演算時にオーバーフロー等のエラー
が発生すると、全桁にめちゃめちゃな表示が出力されるなど、実に人間っぽく
てアナログ的な挙動が起こったりする。
まるでニューヨーク近代美術館にでも展示されているようなデザインと、オ
リジナリティ溢れるフォント、それにPOPな配色と、70年代の良さを凝縮
したような製品が、機能的には単に四則演算を行うだけの電卓であるというの
も、今考えると非常に面白い。この製品を見ると、アポロ計画や万博を思い出
してしまう逸品である。
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写真10:キーボード基板のアップ |
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写真11:蛍光表示管表示のアップ(正常表示時) |
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写真12:演算エラーを起こした蛍光表示管表示 |