■SHARP COMPET CS−221 これぞ70年代スペースエイジデザインの傑作とも言えるシャープの代表作 COMPET Model CS−221である。角が取れたまろやかなデザ イン、ポップな配色等、造形的にはどこを取っても文句無しの製品だ。本体外 寸は31×24×10cmと大型で、持ち運びには全く適していないが、イン テリアとして飾っておくだけでも雰囲気が出る。コスト最優先の昨今、このよ うな形の電卓はおそらく絶対に出ないであろう。なお、このCS−221のデ ザインは、シャープ初期の電卓CS−31Aに通じるものがある。CS−31 Aは、昭和41年(1966年)に発売されたシャープ初期のデスクトップタ イプの電卓であり、プレーナートランジスタを集積したバイポーラICを使用 していた。CS−221も、このCS−31Aのデザインを若干踏襲している ものと思われる。
このCS−221は、内部基板の捺印から昭和46年(1971年)4月2 4日に製造されていることが判明した。この頃は、DTL(ダイオード・トラ ンジスタロジック)のICから、MOSを使用したワンチップLSIへの以降 時期であり、デバイス面での急速な技術革新が行われていた時である。CS− 221では、まだマイコンによるワンチップLSI化は行われておらず、基板 上にはDTL ICと無数のダイオードが搭載されている。消費電力は約13 W、本機のシリアル番号は05791706となっていた。 表示はシャープお得意の独特な形をしたフォントを使用した緑色発光蛍光表 示管であり、12桁構成となっている。小数点位置は、レバー操作で0,1, 2,3,4,6に設定可能となっている。キーはシャープらしくクリック感の あるしっかりした作りで、チャタリングは無い。電源コネクタは、これもシャ ープ製品に多く見られる3つ穴タイプとなっている。
内部は、電源部、ロジック部、表示部の3つの部分から構成されている。電 源部はケースの一番奥に位置しており、ロジック部と表示部の2枚の基板は、 積層上に配置され、バスにより接続されている。従って、下側に位置するロジ ック部基板の詳細は見ることができない。一見して驚くのは、ダイオードと抵 抗の多さである。しかも、これらのディスクリート部品は、接触によるショー トを防止するため全て絶縁チューブを被せられて基板に実装されているのであ る。アッセンブリには恐ろしい手間がかかったものと思われる。 表示基板上には、「S46.4.26」の捺印と、「7386」と書かれたシールが 貼付されていた。表示基板はベークライト製で、三菱製16Pin DIP− IC、M58205が3個と、日立製メタルキャントランジスタ2SA549 が11個、またニキシー管の裏側に、三菱製16PIN DIP−IC、M5 8201が7個搭載されている。 蛍光表示管は各桁がセパレートになっており、12桁+記号1桁の、計13本 構成。記号表示用蛍光表示管は「T」と「−」記号を表示する。蛍光表示管は メタルフレームに固定されマウントされている。蛍光表示管の足も、全本数絶 縁チューブで覆われ基板に直にハンダ付けされている。 ロジック基板は、表示基板の下に隠れて良く見ることができないが、手前に 三菱製の24PinセラミックパッケージLSI、M58202と、16Pi nのプラスチックDIP−IC、M58207が実装されているのがわかる。 この他、基板内部には16PinのプラスチックDIP−ICが8個ほど確認 できた。また、基板上には膨大な数のダイオードが実装されており、壮観であ る。
本製品は、完全なディスクリート部品の時代から、マイコン制御によるワン チップの時代に至る過渡期の製品となっている。MOS−ICによる集積化ま でには至っておらず、バイポーラICと夥しい数のディスクリート部品とで構 成されている。マイコンによる制御がなされていない時代の製品だけあり、動 作的には若干面白い部分がある。例えば、演算時にオーバーフロー等のエラー が発生すると、全桁にめちゃめちゃな表示が出力されるなど、実に人間っぽく てアナログ的な挙動が起こったりする。 まるでニューヨーク近代美術館にでも展示されているようなデザインと、オ リジナリティ溢れるフォント、それにPOPな配色と、70年代の良さを凝縮 したような製品が、機能的には単に四則演算を行うだけの電卓であるというの も、今考えると非常に面白い。この製品を見ると、アポロ計画や万博を思い出 してしまう逸品である。