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写真3:SHARP COMPET CS-12A 本体正面 |
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写真4:SHARP COMPET CS-12A 本体側面 |
本体の寸法は28.5×31×12cmと非常の大きい。パネル左側には、
小数点制御用のダイアルと電源スイッチが、パネル右側には「×、N、÷」と
記載されたレバーが配置されている。パネル左側の電源スイッチの下に見える
スリットは、マイクもしくはスピーカーを連想させるが、実際はそうでなく電
源トランスの放熱スリットとなっている。なお、本体のシリアル番号は
95127411となっていた。
キーボードの配色は、白、青、赤となかなかポップであり、現在でも通用す
るデザインだ。COMPETシリーズに共通して言えることは、キーボードの
作りが非常にしっかりとしていることで、この電卓もコクコクと適度に重く押
しやすいキーを搭載している。なお、筆者が所有しているシャープ製電卓では
経年劣化によるチャタリングや動作不良がほとんど無い。それだけキーの作り
がしっかりとしているからであろう。
表示はCOMPETシリーズお馴染みの独特のもの。蛍光表示管による数字
は、非常に奇妙なフォントを採用していることで有名である。文字の色はグリ
ーンとなっている。
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写真5:SHARP COMPET CS-12A 本体背面 |
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写真6:本体裏面銘版のアップ |
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写真7:本体上面ロゴのアップ |
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写真7a:小数点桁数制御ダイアル |
内部構造は、なかなかの迫力である。LSIはまだ使用されておらず、夥し
い数のMOS−ICとトランジスタおよびダイオードで構成されているのであ
る。基板は2枚構成になっており、下が演算ロジック部、上が表示部となって
いる。本体手前には、電源ブロックが配置されている。
MOS−ICは、上述したように日立製作所と日本電気に開発を依頼したも
のが使用されている。ICはメタルキャンタイプの古典的なもので、12Pi
nのパッケージとなっている。使用されている品番は、下記の通り。日本電気
製ICは、記念すべきμPDの1番が使用されている。
NEC μPD1、μPD145
日立 HD706M、HD708M、HD709M、HD713M
この他に、2SA549や2SC458といったトランジスタも使用されて
いる。2枚構造となっている基板上では、見える部分だけでICが35個搭載
されている。総IC数は、おそらく40個以上は使用されていると思われる。
ICが実装されている基板上を見ると、「φ1、t1、t2、t3、VD」と
いったシルク印刷が見受けられる。駆動するクロック等が記されているのであ
ろう。MOS−ICによる集積化が図られているとはいえ、現代の水準からす
ると猛烈な数の部品が使用されている。当時としてはこれでも、バイポーラ
ICを使用した製品よりは集積化と省電力化がなされていたのであろう。なお
基板上には7290−01−Bの記載があった。
蛍光表示管は12本搭載されており、メタルフレームによって固定されてい
る。マイナス表示は一番右側に配置されたネオン管で行う。蛍光表示管の裏側
には、ドライブ用のトランジスタが14個整然と並んでいる。
初期の電卓らしく、パワーオン時には12桁全部にランダムな数字が表示さ
れるため、一回「C」キーを押してリセットする必要がある。キーボードは磁
石式リレースイッチを採用している。
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写真8:SHARP COMPET CS-12A 本体内部 |
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写真9:SHARP COMPET CS-12A ロジック基板全景 |
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写真10:ロジック基板のアップ |
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写真11:NEC製MOS-IC「μPD1」 |
CS−12Aは、仕様的には四則演算を行うだけの、これといった特徴の無
い12桁電卓であるが、その開発に困難を極めたMOSトランジスタICを使
用した記念すべき電卓であった。中でもNECのμPDシリーズの最初の製品
である、「μPD1」が使用されていると思うと、感慨深いものがある。現在
では主流となっているMOS技術であるが、当時は特性の安定化を実現する上
で、とてつもない困難があったという。
この後、シャープ社はロックウエル社に電卓用MOS−LSIの開発を依頼
その結果、マイクロコンペット「QT−8D」では、4個のLSIで電卓を構
成するに至る。QT−8Dが発売されたのが昭和44年(1969年)のこと
であるから、CS−12Aのわずか2年後のことである。これを見てもわかる
ように、当時集積化技術は驚くべきスピードで行われていたのである。
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写真12:キーボード基板のアップ |
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写真13:蛍光表示管ドライブ回路のアップ |
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写真14:蛍光表示管表示 |