■Casio 161 カシオ初期の電卓、161である。外寸は35×30×13cmと、非常に 大きく重たい電卓だ。型番が示す通り、表示は16桁で全てニキシー管が使用 されている。筐体は微妙にスペースエイジを感じさせるデザインで、濃紺のボ ディにアイボリーのキーボードと取り合わせは、今見てもなかなかポップな感 覚だ。定格は28W。シリアル番号は109010となっていた。正確な製造 年月は不明であるが、内部を構成しているデバイス類、ロジック回路がICを 使用しており、LSIが使われていない点等から判断すると、1970年頃の 製品ではないかと思われる。
仕様的には四則演算に加えてメモリー機能も内蔵されている。キーボードの タッチは、クリック感は無いものの、ストロークは十分深く確保されており押 しやすい。タッチの感触は、カシオ101Eと良く似ている。 電源コードは取り外し可能なタイプで、本体底面にコネクタがある。電源コ ネクタは3Pの特殊なものである。本体底面にはヒューズボックスも設けられ ている。電源を投入すると、各桁のニキシー管にバラバラと「0」が表示され る。パワーオンリセット機能は付いているようであるが、全桁「0」表示され るまで、約10秒以上もかかる。なお、「0」クリアされる桁の順番は、不規 則だ。計算準備ができると、全桁に「0」が表示され、なかなか壮観である。
本体内部は4枚の基板がバス接続されており、電卓と言うよりは、まるで一 昔前のマイコンの内部を見るようだ。ロジックIC、トランジスタ、ダイオー ドを多用しているため、部品点数は非常に多い。内部はキーボードの裏側に電 源回路が搭載されており、本体奥に4枚のロジック基板が、システムバス形式 で接続されている。一番上の基板はニキシー管表示用ドライブ基板、二番目の 基板は、表面の捺印よりメイン基板であると思われる。内部は大変整理されて おり、設計の良さが伺える。故障の際も、簡単な作業で各基板を取り外すこと ができ、メンテナンス性もこの時代の製品としては優秀だ。ちなみに、基板間 を結ぶジャンパ配線は、たったの1本のみであった。
次に、各基板に搭載されている主なデバイスを示しておく。ロジックICは DIPパッケージの他に、メタルキャンパッケージのものも搭載されており、 時代を感じさせる。メタルキャンタイプのロジックICには、NEC製の μPD10とμPD13が使用されていた。1967年発売のSHARP Compet CS−12Aでは、記念すべきμPD1が搭載されていたこと を考えると、それから余り経過していない時期の製品であることが伺われる。 基板は全部で4枚あるが、うち3枚はモデル161専用に設計されたもので あり、残りの一枚、「MAIN」と捺印された基板は、おそらくモデル121 と共通になっているものと思われる。 ・1枚目(バスの一番下の基板)) 161専用に設計された基板。NECのV番号(試作品)のICが使用され ている。 NEC μPD10 4個 メタルキャン NEC μPD13 3個 メタルキャン NEC μPD101C 6個 セラミックDIP NEC μPD102C 5個 セラミックDIP NEC V5075 3個 メタルキャン 日立 HD701M 7個 メタルキャン ・2枚目 161専用に設計された基板。「50.9.9」名古屋KYOEIの捺印 あり。セラミックDIPデバイスを多用している基板。 NEC μPD101C 6個 セラミックDIP NEC μPD102C 7個 セラミックDIP NEC μPD10 4個 メタルキャン NEC μPD13 4個 メタルキャン ・3枚目 Model121と捺印されている基板。同社の電卓121とモジュールが 共通化されている可能性もある。また、MAINという記載があるためロジ ック部のメイン基板であると思われる。「50.10.6」名古屋 KYO EIの捺印あり。 NEC μPD101C 4個 セラミックDIP NEC μPD10 6個 メタルキャン NEC μPD13 3個 メタルキャン 2SC371 17個 ・4枚目(バスの一番上の基板) ニキシー管ドライブ回路。161専用に設計された基板。トランジスタとコ ンデンサーで占められている。メタルパッケージタイプのトランジスタも使 用されている。 NEC μPD13 1個 メタルキャン 2SA549A 16個 2SC371 25個 2SC284 12個
本製品には、持ち運びに便利なようにと、専用のキャリングバッグが付いて いた。このバッグであるが、事務機器のパイロットが提供していたもので、表 面にはPILOTとCasioのロゴが併記されている。また、はぜか保証書 と取り扱い説明書を入れる「袋」のみも残されていた。