■BUSICOM 120−DB intel社が開発した世界初のCPU、4004を電卓に搭載したことで 有名なビジコン社(BUSICOM:旧称日本計算機株式会社)製作の12桁 電卓、120−DBである。残念ながらこの電卓には4004CPUは使用さ れていない。まだCPUが登場する以前の、ダイオードとトランジスタによる ICが使用されていた頃の製品だ。 ビジコン社は、昭和45年(1970年)に、社名を「日本計算機」から変 更した。その後、昭和46年(1971年)には、モステック社製のワンチッ プ電卓用LSIを使用した手のひらサイズの電卓「ビジコンLE−120A」 を発表している。同社はまた、intel社とストアード・プログラム電卓用 LSIの開発についての契約を結び、昭和46年に世界初のCPU「4004 」を電卓に採用した。
BUSICOM 120−DBの詳細な製造年月日は不明であるが、ケース 内部に貼付された修理履歴シールには、昭和47年9月26日の記載があり、 無償修理を実施していることから、おそらく昭和46年頃の製品と思われる。 前述したように、本製品には世界初のCPU「4004」は、搭載されていな い。当時、ビジコン社はモステック社に設計を依頼した電卓専用のMOS−L SI「MK6010」を搭載した電卓を商品化していた。しかし、DB−12 0は旧来のダイオードと多数のICを使用した古典的な設計となっている。お そらくは、多数のICを使用した電卓から専用LSIを使用した電卓への、過 渡期の製品であろうと思われる。
DB−120は30×26×11cmと非常の巨大な筐体の製品で、持ち運 びに便利なように取っ手が付けられている。電源はAC100Vで、コードは 本体と分離しており、専用の3Pコネクタで接続する。 メモリ機能は無く単純な四則計算のみ。表示はグリーンの蛍光表示管を12 本使用しており、オーバーフローと負号はネオンランプで表示する。小数点表 示制御は0,2,3,4が設定可能で、昔の扇風機の風量調節に似たダイアル で設定するようになっているのが面白い。ケースの色はアイボリーで、キーボ ード部分が黒、キートップは青と白の2色が使われており、全体的に上品なデ ザインに仕上がっている。 本体背面の銘版を見ると、BUSICOMの他にElectroTechn ical Industriesの表示が併記されている。さらに本体裏面に は電子技研工業株式会社の検査証が貼られている。このことから、本電卓は電 子技研工業のOEM製品と考えることもできるが、詳細は不明である。定格は 7W。シリアル番号はOG−130−153となっていた。
内部は、DTL−IC使用の初期電卓としては大変整理されており、部品数 も思ったより少ない。キーボード部分、電源部分、蛍光表示管表示部分、ロジ ック部分の4つから構成されており、ロジック部分は一番下の大きな基板で、 ガラエポ製基板が使用されている。蛍光表示管は1本が高さ45mm、太さ 10mm程度もある大きなもので、まるで12本のソーセージが並んでいるよ うな感じだ。表示は7セグタイプをガラス管に封入したもので、色は淡いグリ ーンとなっている。 基板上にはNECと三菱のICが使用されている。 以下に使用デバイスを示す。 NEC μPD13C 14PinセラミックDIP NEC μPD10C 12PinメタルキャンPKG 三菱 M5812 14PinプラスチックDIP ロジック基板上には夥しい数のダイオードが実装されており、なかなか壮観 だ。蛍光表示管の裏側には、ドライバトランジスタが37個整然と並べられて いる。キーボード部分は大変端正な配線が施されており、作りの良さが見受け られる。小数点位置制御ダイアル部分には、ロータリースイッチが用いられて いる。各基板への配線も、一つ一つきれいに束ねられており、組み立てにはか なりの手間がかかったものと思われる。キーボード上部には、修理履歴シール が貼付されていた。 電源を投入すると、全桁に0が表示される。マイコン制御ではない電卓では 電源ON時にはランダムな数字が表示され、一回クリアリセットを行わないと 使えないものが多いが、この電卓は即使用可能となる。回路設計が優れている 証拠であろう。 ビジコン社はこの製品の後、コスト削減を図るために2通りの設計方針を採 用する。一つはモステック社に設計を依頼したMOS−LSI「MK6010 」に見られる専用LSI化によるチップ削減。そしてもう一つはintel社 に設計を依頼した世界初のマイクロプロセッサ「4004」に見られるストア ード・プログラム方式設計によるチップ削減である。マイクロプロセッサを使 用した電卓は、その後マイクロコンピュータとして驚異的な発展を遂げること になる。