■Casio Model 101−A ここに掲載した製品は、筆者の電卓コレクションの中でも、特に気に入ってい るモデルである。カシオ計算機の卓上型電卓で、比較的知名度の高い101シ リーズの、これは初代機と思われるA型である。資料が無いため、発売年を正 確に同定することができないが、基板にシルク印刷された文字から想像すると おそらく1971年であると思われる。 さて、この101という型番であるが、別項にてご紹介した、17インチモニ タほどの大きさがある1966年製造のカシオの計算機も、101Eという型 番であった。この巨大な計算機の末裔というには、このモデル101−Aはあ まりにもデザインが違いすぎている。両機種ともに10桁の表示部分を持つこ とから、101の上位2桁はおそらく表示桁数を表わしているのではないかと 思われる。 よりコンパクトとなったこの101シリーズには、101−Aの他にも101 −Lと呼ばれる製品があった。この101−Lは、基本的な仕様、デザインは 101−Aを踏襲し、表示部分にFL管(蛍光表示管)を使用したものだ。 これら101シリーズのケースデザインであるが、グッドデザインとも呼べる 秀逸な出来である。表示部分には10桁のニキシー管を採用しているが、搭載 されているニキシー管は後期型の7セグメントタイプで無く、数字形をした電 極が封印されたタイプである。このタイプのニキシー管を使用した電卓は、比 較的大型のものが多いのであるが、この101−Aは極めてコンパクトである と言えるだろう。 写真2は、101−Aのニキシー管表示のアップ。斜め横からマクロモードで 撮影してみた。0〜9までの数字を表示させているのだが、各桁に表示された 数字の奥行きが前後していることがわかると思う。ニキシー管は1本のチュー ブに0〜9までの数字型をした電極を封印しているため、表示される数字によ って奥行きが異なってくる。これがニキシー管の特徴の一つとなっている。 101−Aのニキシー管は、非常に小型の管を採用しているせいかとても繊細 で、あたかも精密な測定機器を見ているかのようである。なお、本体電源はA C100Vのみ。当然のことではあるが、電池駆動はできない。
写真3は、101−Aの外観。1971年製造ということもあり、スペースエ イジ的なデザインとなっている。本体の色使いは極めて質実剛健で、非常にス トイックな感じを受ける。キーボードは重量感のあるプラスチックを使用して おり、その後コストダウンが図られた製品のそれとは一線を画す。101シリ ーズ筐体に共通した特徴である傾斜した全面パネルには、モデル名称が印刷さ れている。 写真4は本体裏面に添付された銘版のアップ。シリアル番号は609345、 QNoはQ87410となっていた。Casioのロゴは、もちろん旧ロゴで ある。
写真5は、101−A本体の内部。ロジック基板にはガラスエポキシが用いら れていた。電卓専用のLSIが出現する以前の製品であり、ロジック部は数個 のICによって構成されているものの、AS−B等初期の電卓と比較すると、 格段にチップ数が削減されていることがわかる。 写真6は、ロジック基板のアップ。丸いメタルキャップを持つ4個の24ピン セラミックパッケージICが目を引く。当時、電卓を構成するには「演算」「 記憶」「入力制御」「表示制御」の4個のICが必要だったそうである。10 1−Aに搭載されている4個の24PinICが、これに相当しているのかど うかは定かではないが、チップ構成としてはかなり近いと思われる。この写真 には写っていないが、ニキシー管の背後にもドランジスタが多数実装されてい る。おそらく、ニキシー管をドライブするためのものと思われる。基板上には 下記ICが確認できた。 日立製 : HD3210、HD3211、HD3212、HN3205 (いずれも24ピンセラミックパッケージ) 日立製 : HD3214(16Pinセラミックパッケージ) 東芝製 : T1191 日立製 : HD3227P、HD3226P、HD3233P (いずれも16ピンプラスチックDIP) 日立製 : HD3219P(24Pin)ドライバ制御回路 日立製 : FD1003(表示用モジュールIC) 写真7はロジック部に使用されている制御用ICのアップ(HD3210)。 セラミックパッケージで、上部に丸いメタルの蓋が付き、型番が同心円状に捺 印されている。この時代のICは高価だったこともあり、なんとなく風格を感 じさせる。
写真8は、消灯時のニキシー管のアップ。繊細な工芸品のようである。写真9 は0〜9までの数字を表示させたもの。ニキシー管はソケットで実装されてい るわけでは無く、ベークライトの板に穴をあけた基板に実装されている。 写真10は、キーボードのメカ部分のアップ。カシオ初期の電卓で良く採用さ れていた、磁石によるリレースイッチが使用されている。 この時代の計算機はどれもそうであったが、この101−Aも複雑な割り算等 を計算させると、若干考え込む。時間にすると0.5秒以下だと思うが、その 間、ニキシー管表示部にはめまぐるしく数値が出力され、いかにも計算中とい った動作を示す。現在の製品には、こういった妙にアナログ的な動作が全くと いって良いほど無いため、かえって新鮮に感じるほどだ。このカシオ101− Aは、筆者のお宝マシンとして、今も机の上に常備して使っている。