UNIVAC 1710 キーボード。

■UNIVAC 1710 キーボード (2014/08/14)

 コンピュータ前史に目覚めてしまった筆者は、歴史の証人、語り部となるべく、さらなるレア・アイテムを求めてネットの世界をさ迷っていた。ここに取り上げた物も、そんな過去の遺産である。

 UNIVAC

 コンピュータマニアであれば、一度は聞いたことのある名称だ。

 UNIVACのルーツは深い。元々は、あのENIACを設計・製造したエッカートとモークリーがエッカート=モークリー・コンピュータ・カンパニー(ECC)を設立し、次の世代のメインフレームであるUNIVACの開発に着手したことに始まる。その後、経営上の問題からECCはレミントンランド社に売却。レミントンランド社は、UNIVAC部門を新設して、開発を続行した。1955年 レミントンランド社はスペリー社と合併し、スペリーランド社と改称。これに伴ってUNIVAC部門は、スペリーUNIVACと改称される。最終的に1986年、スペリー社はバロース社と合併しユニシス社となり現在に至る。

 UNIVACの最初の製品であるUNIVAC Tは、1951年にリリースされた。その後、UNIVAC U、UNIVAC Vと続き、1969年にはUNIVAC 9000シリーズが登場する。UNIVAC 1710は、これらUNIVACメインフレーム群の一種の周辺機器であり、1969年にリリースされたデータエントリー専用の端末である。なお、UNIVAC 9000シリーズは、当時絶好調で市場を制覇していたIBM System/360の対抗機種として設計された。

 今回取り上げたキーボードは、上述のUNIVAC 1710に使用されていたものだ。製造は1969年。このデータエントリー用端末は、当時としてはとても処理速度が速く、かつ汎用性も高かった。この装置には、プログラム用として2個、データ用として1個のコア・メモリが内蔵されていた。それぞれのコア・メモリの構成は、16 x 80 x 2(=2,580)となっていたようだ。プログラムとデータは、一旦これらのコア・メモリ内に格納された後、パンチカードにパンチされる。即ち、最終的にパンチカードを作成する前に、電子的に入力ミスを修正できる仕組みを内蔵していた。パンチされたカードにエラーがあった場合にも、エラーのあるカードは自動的に排出されるように構成されていたそうである。

 キーボードの上端部には、カードパンチ端末であることを示す特徴的なキースイッチが並んでいる。「BLANK FILL/ZERO FILL」、「PRINT/OFF」、「PUNCH/VERIFY」、「AUTO/MANUAL」等々。キー配置はQWERTYだが、記号の配置は現在のキーボードと異なり、またカードパンチ端末特有のキー、例えば「MULT PCH」、「DUP」、「PROG ALT」、「SKIP」、「FEED」、「EJECT」といったものも有る。

 キーボードと本体とは、専用のI/Fカードで接続されていた。カードは2枚で1組になっており、結線ケーブルが基板に扇状にハンダ付けされている。造形的にも美しい。

 キーのタッチは、しっかりしている。メカニカルスイッチなので、製造後45年を経過した現在でも、コク、コクとしっかりしたキータッチだ。

 今となっては、このキーボードはコレクション・アイテム以外の何物でも無い。ただ見てニヤスカするだけである。しかし、このマシンのルーツが、かのENIACであったことに思いをはせると、感動もひとしおだ。え?感動なんかしないって?そりゃ、まあ。普通のヒトはそうかも知れないねぇ・・・



UNIVAC 1710の外観
technikum29 Living Museumより転載。

UNIVAC 9400 Mainframe Computerの外観
technikum29 Living Museumより転載。

UNIVAC 1710キーボード上の銘板。
スペリーランド社のロゴマークが見える。

UNIVAC 1710キーボード上面。
キーボード上部には、スイッチが並んでいる。配列は基本的にQWERTYだが、パンチカード入力端末特有のキーも有る。

UNIVAC 1710キーボード。

UNIVAC 1710キーボード側面。

UNIVAC 1710キーボード背面。

UNIVAC 1710キーボード底面。

UNIVAC 1710キーボード底面銘板。

UNIVAC 1710キーボードのI/F基板。

UNIVAC 1710キーボードI/F基板。

UNIVAC 1710キーボードI/F基板のアップ。
扇状のパターンが美しい。

UNIVAC 1710キーボードと、Apple Wirelessキーボード
過去と現在の対比。

 余談だが、UNIVAC Tには有名なエピソードが有る。

 UNIVAC Tが発売された翌年、1952年の米国大統領選挙の際の出来事だ。CBSニュースは、米国主要八州の初期開票結果を基に、ドワイト・アイゼンハワーとアドレイ・スティーヴンスンのどちらが勝利するかをUNIVAC Tに予測させたのだ。計算結果は100対1でアイゼンハワーの圧勝と出る。しかし、ほとんどの選挙予測では結果は僅差であると予想していただけに、CBSニュースはこの予想をそのまま流すことを躊躇した。UNIVACのプログラマーはパラメータを意図的に操作し、8対7の僅差でアイゼンハワーが勝利するという予測を出すように細工し、CBSニュースは、この操作した結果を放送した。しかし、本当の結果は最初にUNIVAC Tが予想した通り、アイゼンハワーの圧勝となる。UNIVAC Tが出した結果は、実に99%以上の精度であった。これを受けて、CBSニュースでは、選挙終了後にコンピュータが出した結果をでっち上げたことを告白した。

 以上のハナシは、スコット・マッカートニー著「エニアック」PP182−184に記載されている。いつ読んでも痛快はハナシである。

 コンピュータの問題は人間のせいである場合が多いことは良く知られている事実である。




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