■ゼロ・グラビティ (2014/05/18)

 遅れ馳せながら、レンタル店で映画「ゼロ・グラビティ」を借りてきて見る。

 2013年に公開されたこのSF映画は、ナント!壮大なギャグ作品だった。

 前評判では、リアリティを追求した宇宙空間や、ISS、ソユーズ宇宙船のディテールが話題になっていた。それについては、文句の付けようが無いほど良く出来ている。無重力状態をスタジオで再現するのは、さぞかしタイヘンであっただろう。その昔、トム・ハンクス主演の「アポロ13(1995年)」では、無重力空間を再現させるために、実際にNASAが保有する無重力訓練機 KC-135A 別名「嘔吐彗星」を、600回近く飛行させて撮影していた。今ではCGが発達し、撮影技術も向上したので、スタジオでの撮影で無重力空間を演出することが可能になったそうだ。その映像は圧倒的リアリティに満ちている。

 この映画、尺が90分しか無い。これは最大限評価できる。最近の映画は、2時間越えは当たり前、ひどいものになると3時間以上の作品も多い。言いたいことをタイトにまとめるのも映画監督の手腕の一つだと考えている筆者としては、90分という限られた時間に物語を凝縮した本作は好感が持てた。因みに、尺が短く内容の濃い傑作映画は、なんといってもデイヴィッド・クローネンバーグが1982年に製作した「ヴィデオドローム」であろう。これなんか、たったの87分しか無い。

 では、この映画の一体どこが壮大なギャグ作品なのか。

 先ず、ISS(国際宇宙ステーション)とハッブル宇宙天文台と中国の宇宙ステーション「天宮」が、お互いにほどんど同じ軌道高度上を極めて接近して漂っているという設定である。ハッブル望遠鏡からISSまで、船外活動ユニットでフラフラと行けてしまう距離なのだ。さすがにこれは余りにも変だと思ったので、ちょっと調べてみた。

 ISSの軌道高度は地上約400km。ハッブル宇宙望遠鏡のそれは地上約600kmである。その差は200km。高度がこれだけ違うと、周回速度も当然全く異なる。とても船外活動ユニットで行けるモノでは無い。しかも、映画では両方がほぼ同じ場所に漂っている。この設定は、いかにもご都合主義だ。科学考証以前の問題であろう。でも、こういう所を突っ込まないのがお約束なので、この映画はギャグ作品だと言ったワケである。

 中国の天宮宇宙ステーションにしても、偶然とはいえ近くにあり過ぎる。ソユーズの着陸時逆噴射を推進力として到達できるというのにも無理がある。それ以上に、あれだけスペースデブリの襲撃を受けてメチャクチャになったISSが、なぜか内部の気密だけは保たれており、おまけに火災まで発生しているというのは、サスペンスの造り過ぎの感が強い。

 映像の圧倒的リアリティと設定のご都合主義が絶妙にブレンドされた逸品である。

 とまあ、色々と書いたけれども、総合的に見て面白かったからそれで良しとしました。ガチガチの理系視点で見ないことをオススメします。





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