青年訓練手帳に掲載されていた教育勅語。
昭和4年の印刷。

■教育勅語 (2014/05/12)

 教育勅語の原本が半世紀ぶり確認され、国立公文書館で公開されることになったようだ。(詳細はこちら)。

 教育勅語などと書くと、戦前の軍事教育を思い浮かべる人も多いようだが、書かれている内容といえば、いくつかの細かい部分を除けば至極真っ当なものなのである。中身を真剣に読んだことの無い人が勝手な想像すると、軍事的だとかいう評価になってしまうのであろう。

 明治天皇が山縣有朋内閣に与えて発布された教育勅語には、父母への孝行、夫婦の調和、博愛など12の徳目が示され、修身(道徳教育)の根本規範とされた。まさにその通りである。但し、ちょっと引っ掛かるところは有る。先ずは、その内容を見ることにしよう。


教育勅語。
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 これにフリガナを付けると、こうなる。



 朕(ちん)惟(おも)フニ、我(わ)ガ皇祖皇宗(こうそこうそう)國ヲ肇(はじ)ムルコト宏遠(こうえん)ニ、コヲ樹(た)ツルコト深厚ナリ。我(わ)ガ臣民(しんみん)克(よ)ク忠ニ克(よ)ク孝ニ、億兆(おくちょう)心ヲ一(いつ)ニシテ世世(よよ)厥(そ)ノ美ヲ濟(な)セルハ、此(こ)レ我(わ)ガ國體(こくたい)ノ精華ニシテ、教育ノ淵源(えんげん)亦(また)實(じつ)ニ此(ここ)ニ存ス。爾(なんじ)臣民(しんみん)父母(ふぼ)ニ孝ニ、兄弟(けいてい)ニ友(ゆう)ニ、夫婦相(あい)和シ、朋友(ほうゆう)相(あい)信ジ、恭儉(きょうけん)己(おの)レヲ持(じ)シ、博愛衆ニ及ボシ、學(がく)ヲ修(おさ)メ、業(ぎょう)ヲ習(なら)ヒ、以(もっ)テ智能ヲ啓發シ、コ器(とっき)ヲ成就シ、進(すすん)デ公益ヲ廣(ひろ)メ、世務(せいむ)ヲ開キ、常ニ國憲(こっけん)ヲ重(おもん)ジ、國法(こくほう)ニ遵(したが)ヒ、一旦(いったん)緩急(かんきゅう)アレバ義勇(ぎゆう)公(こう)ニ奉(ほう)ジ、以(もっ)テ天壤無窮(てんじょうむきゅう)ノ皇運(こううん)ヲ扶翼(ふよく)スベシ。是(かく)ノ如(ごと)キハ獨(ひと)リ朕(ちん)ガ忠良(ちゅうりょう)ノ臣民(しんみん)タルノミナラズ、又(また)以(もっ)テ爾(なんじ)祖先ノ遺風ヲ顯彰(けんしょう)スルニ足(た)ラン。 斯(こ)ノ道ハ實(じつ)ニ我ガ皇祖皇宗(こうそこうそう)ノ遺訓ニシテ、子孫臣民(しんみん)ノ倶(とも)ニ遵守(じゅんしゅ)スベキ所(ところ)、之(これ)ヲ古今(ここん)ニ通(つう)ジテ謬(あやま)ラズ、之ヲ中外(ちゅうがい)ニ施シテ悖(もと)ラズ。朕(ちん)爾(なんじ)臣民(しんみん)ト倶(とも)ニ拳々服膺(けんけんふくよう)シテ、咸(みな)其(その)コヲ一(いつ)ニセンコトヲ庶幾(こいねが)フ。
明治二十三年十月三十日
御名御璽(ぎょめいぎょじ)



 これでは難しいので、国民道徳協会の現代語訳を以下に掲載する。



 私は、私達の祖先が、遠大な理想のもとに、道義国家の実現をめざして、日本の国をおはじめになったものと信じます。そして、国民は忠孝両全の道を全うして、全国民が心を合わせて努力した結果、今日に至るまで、見事な成果をあげて参りましたことは、もとより日本のすぐれた国柄の賜物といわねばなりませんが、私は教育の根本もまた、道義立国の達成にあると信じます。

  国民の皆さんは、子は親に孝養を尽くし、兄弟・姉妹は互いに力を合わせて助け合い、夫婦は仲睦まじく解け合い、友人は胸襟を開いて信じ合い、そして自分の言動を慎み、全ての人々に愛の手を差し伸べ、学問を怠らず、職業に専念し、知識を養い、人格を磨き、さらに進んで、社会公共のために貢献し、また、法律や、秩序を守ることは勿論のこと、非常事態の発生の場合は、真心を捧げて、国の平和と安全に奉仕しなければなりません。そして、これらのことは、善良な国民としての当然の努めであるばかりでなく、また、私達の祖先が、今日まで身をもって示し残された伝統的美風を、さらにいっそう明らかにすることでもあります。

  このような国民の歩むべき道は、祖先の教訓として、私達子孫の守らなければならないところであると共に、この教えは、昔も今も変わらぬ正しい道であり、また日本ばかりでなく、外国で行っても、間違いのない道でありますから、私もまた国民の皆さんと共に、祖父の教えを胸に抱いて、立派な日本人となるように、心から念願するものであります。



 上記の現代語訳であるが、「我(わ)ガ皇祖皇宗(こうそこうそう)」のところを、「私達の祖先」と意訳している。原文に忠実であるためには、ここは「我が皇室の先祖」と訳すべきであろう。

 また、「一旦(いったん)緩急(かんきゅう)アレバ義勇(ぎゆう)公(こう)ニ奉(ほう)ジ、以(もっ)テ天壤無窮(てんじょうむきゅう)ノ皇運(こううん)ヲ扶翼(ふよく)スベシ。」の部分を「非常事態の発生の場合は、真心を捧げて、国の平和と安全に奉仕しなければなりません。」と訳している。ここも、本文に忠実に従えば、「そしてもし危急の事態が生じたら、正義心から勇気を持って公のために奉仕し、それによって永遠に続く皇室の運命を助けるようにしなさい。」となるべきであろう。

 現代語訳に関しては、以上二点が気になる程度で、その他の部分は、至極まっとうなコトが書かれているではないか?まっとう、というよりも、人の道としてアタリマエのこととも言えそうだが、いかがだろうか?


教育勅語が掲載されていた「青年訓練手帳(右側)」。左側は、「軍隊手帳」。

「青年訓練手帳(右側)」と「軍隊手帳(左側)」の裏面。

「青年訓練手帳」の表紙。

「青年訓練手帳」の中に掲載された教育勅語のページ。


「軍隊手帳」を開いたところ。

「軍隊手帳」の「勅諭」。

「勅諭」の中に見られる「変体仮名文字」。

 ついでに軍隊手帳について。

 「軍隊手帳」は、「軍隊手牒」とも称する。軍隊手帳の最初には、「勅諭」が掲載されている。勅諭もしくは軍人勅諭は、、1882年(明治15年)1月4日に明治天皇が陸海軍の軍人に下賜した勅諭であり、正式には「陸海軍軍人に賜はりたる敕諭」という。この軍人勅諭は、変体仮名交じりの文語体で、総字数2700字におよぶ長文だが、陸軍では将兵は全文暗誦できることが当然とされていたそうである。これはキツかっただろうな。

 上記画像のマルで囲んだ部分が、変体仮名文字。変体仮名(へんたいがな)は異体仮名(いたいがな)との言われ、平仮名の字体のうち、1900年(明治33年)の小学校令施行規則改正以降の学校教育で用いられていないものの総称となっている。上記のマルで囲んだ文字は、「の」の字を示している。

 以下、変体仮名文字の一覧を掲載しておく。


変体仮名文字一覧。

青年訓練手帳の内部(一部抜粋)。
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