出版事故となった「アインシュタイン:下巻」(左)と、修正出版されたもの(右)。第一刷と第二刷の違いは、帯の色で判る。


■出版事故 (2011/08/28)

 ネットでも有名になった書籍である。皮肉な言い方だが、この出版事故が起こったせいで、本書はその存在を広く知られることになった。新刊書のプロモーションとしては実に効果的であった反面、出版社、編集長の出版に対する姿勢が問われることにもなった。

 武田ランダムハウスジャパン発行の2巻本「アインシュタイン その生涯と宇宙」は、アインシュタインの生涯について、膨大な資料を基に書かれた、至ってマジメな本だ。人生と考え方に関する純粋な読み物で、相対論に関する数式は、記憶する限り2つしか出てこない。恐るべきは各巻末に付属している出典一覧で、その数は想像を絶する。著者はライフワークとして、この作品に取り組んできたのであろう。

 で、日本語版は2011年6月22日に第一刷が発行された。上巻・下巻同時発売であったが、これがいけなかった。大著であることから、複数の翻訳者が翻訳に加わり、それぞれ持分を訳していったのだが、下巻にうちの一部の章の翻訳担当が未定のまま残されてしまった。挙げ句の果てに、その部分の機械語翻訳されたものが、そのまま正式な最終稿として通ってしまい、出版されてしまったのだ。

 噂によると、5,000部の下巻が市場に出回ったそうである。その後、読者からの指摘と、何よりも翻訳の一部を担当された方の「Amazon」カスタマーレビューでの衝撃的な告白により、一気に話題となり、出版社は下巻を全て市場から回収する。筆者は、自身「本の虫」を自認しており、こういった出版事故についてはタイヘン気になる。よって、事故本と修正本とを読み比べてみた。

 少なくとも上巻は問題ない。しかし、若干ミスリードを誘う表現や、「てにをは」の間違いが目立つ。下巻の、特に13章辺りは相当やばい。何書いてあるのか、さっぱり理解できない。例を示そう。以下の2つの文章は、この出版事故の中でも特に有名な部分である。

・事故本
 pp41-42
ボルンの妻のヘートヴィヒに最大限にしてください。(そのヘートヴィヒは、彼の家族に関する彼の処理、今や説教された頃、彼が「自分がそのかなり不幸な回答に駆り立てられるのを許容していないべきではない」と自由に彼に叱った)。以上は、彼が目立つべきであり、彼女が言ったのを「科学の人里離れている寺」に尊敬します。

・修正本
 p42
マックス・ボルンの妻ヘートヴィヒは、彼の家族に対する扱いについて、遠慮なく彼にしかったことがあった。今、彼女は彼に「むしろ不幸となる回答に駆り立てられるのを自制すべきだ」と説教した。「科学という人里離れた寺」にもっと尊敬を払わなければならない、と彼女は言った。

 とまあ、こんな感じである。誤解の無いように書いておくが、機械語翻訳は、翻訳担当者が決まっていない部分のみであり、担当者が決まっている所は、きちんと訳されている。また、現在出回っている下巻は、修正2刷りになっており、このようなことは無い。筆者も本を出した経験があるが、最終チェックはそれこそ「死ぬ思い」だった。何度も読み直し、それでも誤植が出てくるのを徹底的にツブす。従って、このような出版事故は、発生すること自体、考えられないのである。

「アインシュタイン」上巻と2種類の下巻。

「アインシュタイン」下巻の初版奥付。

「アインシュタイン」下巻の第二刷奥付。

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