CRAY-1 SUPERCOMPUTER ECL LOGIC BOARDの表面
モジュール化された基板のひとつ。右側のコネクタが、円柱形本体の内側に向くように格納される。使用されているデバイスは、モトローラと富士通で占められる。
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■Cray-1 (2010/11/15)

 コンピュータ関連の仕事に携わってきた現在50歳以上のヒトにとって、「Cray-1」スーパーコンピュータは、余りにも有名だ。シーモア・クレイ率いるクレイ・リサーチ社が1976年に出荷したCray-1は、1985年に後継機のCray-2が発売されるまでの間、80台以上製造されたそうだ。筆者宅には、このCray-1に使用されていた基板が2枚ある。今回は、Cray-1の2枚の基板にまつわるお話しだ。

 1998年9月、WEB上でCray-1の基板を記念品として販売するサイトを見つけた。Anthony Cole氏なる人物が運営していたページで、同氏は1993年に開催されたオークションで、Lawrence Livermore研究所で使用されていたCray-1を丸ごと一台落札したそうだ。落札価格は$10,101.01だった。当初、このCray-1を解体し、接点に含まれている金を抽出して販売しようともくろんでいたCole氏は、その後考えを変える。歴史的なマシンということから、基板をオブジェとしてネット販売したのである。

 この処置は賢明だった。博物館でしか拝めないCray-1を、たとえ部分とは言え手元に置いてニヤスカ眺めることができる、なんてのは、廃人にとっては堪えられない魅力と言うものだ。んでもって、速攻で購入。限定300枚のシリアル番号入りで、ご丁寧にも証明書(Certificate of Authenticity)まで付いてくる。

 販売された基板は「ECL LOGIC BOARD」と「MEMORY BOARD」の二種類。両方とも、基板の両面を保護するように、分厚いアクリルの板で挟まれているため、1枚約3kgほどの重量がある。アクリルには、「CRAY-1 SUPERCOMPUTER」の刻印まで入っているという念の入りようだ。Cray-1はモジュール構成を採用していた。特徴的な円筒の本体に、このような基板が、113種類・1662枚も搭載されていた。各基板はヒートシンク機能も兼ねた5層構造となっており、1枚当たりave 49W、max 65Wもの電力を消費した。ソファのように見える台座の中には、巨大な電源と、液体フレオンを循環させる冷却装置が格納されていた。以下にCray-1の簡単なスペックを記載しておく。

CPU部
インストラクション・サイズ 16ビットもしくは32ビット
インストラクション・コード 128コード
クロックスピード 12.5ns
ファンクションユニット数 12個構成
プログラマブル・レジスタ構成 8×64ビット
73×64ビット
72×24ビット
1×7ビット
メモリ部
プロセス バイポーラ・セミコンダクタ・デバイス
ワード長 72ビット
(データ64ビット、エラー訂正8ビット)
アドレス空間 4Mワード
データ幅 64ビット
サイクルタイム 50ns
メモリサイズ 26万2144ワードまたは
52万4288ワードまたは
104万8576ワード
エラー訂正方式 SECDED
その他
 
CPUキャビネット寸法 ベース部直径:9.0 feet
シリンダ部直径 :4.5 feet
高さ :6.5 feet
総重量 5.25 t
冷却方法 フレオンガス冷却
基板モジュール 113種類/1,662モジュール
5層基板構成
ロジック部トランジスタ換算数 250万個

CRAY-1 SUPERCOMPUTER ECL LOGIC BOARDの裏面
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ECL LOGIC BOARDのコネクタ面 #1
こちらの面は、筐体外側に向いている部分。アクリルの断面に、手書きのシリアル番号(#151/#300)が記載されている。
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ECL LOGIC BOARDのコネクタ面 #2
この面は、円柱筐体内部に向けて配置される。基板上の細かいピンヘッダに、フラットケーブルを接続する。従って、円柱筐体の中央部分は、各基板を接続するフラットケーブルのスパゲッティ状態となる。
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ECL LOGIC BOARDの基板アップ
搭載されているデバイスは、モトローラ社製「SC25528F」で、16Pin ZIPパッケージである。デバイス表面には、手書きの「F」の文字が書かれている。製造は、1981年13週。
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 歴史的なスパコンの基板とはいっても、外見は濃い茶色の基板上にチップが整然と搭載されているだけの、ごく普通のものだ。この2種類の基板に搭載されている石は、モトローラか富士通製でチップ上の捺印から、1981年13週前後であることが判る。Cray-1の最終型が製造されたのが1982年のことだったので、モデル末期の製品であろう。

 基板上を良く見ると、おそらくノイズ除去と思われるフェライトビーズが多数実装されている。また、信号の遅延を調整させるための配線パターンと思しきものも見られる。なお、これら2種類の基板に実装されていたデバイスの種類は、たったの5種類だった。限りなくシンプルな設計になっていたのだろう。以下に、ボードに実装されているデバイスの型番を示しておく。

 ECL LOGIC BOARD

表面
メーカー
型番
製造年週
ピン数
機能
個数
モトローラ SC25528F 81年13週 16 ECL 123個
フェアチャイルド SL56660 81年14週 16 NAND 3個
裏面
モトローラ SC25528F 81年13週 16 ECL 114個
フェアチャイルド SL56660 81年14週 16 NAND 6個

 MEMORY BOARD
表面
メーカー
型番
製造年週
ピン数
機能
個数
モトローラ SC25528F 81年11週 16 ECL 2個
モトローラ MC10161F 81年14週 16 Binary-DECORDER 4個
フェアチャイルド SL56660 81年14週 16 NAND 19個
富士通 F10470 81年14週 18 32個
フェアチャイルド F10231 80年50週 16 Dual F/F 10個
裏面
フェアチャイルド F10231 80年50週 16 Dual F/F 2個
フェアチャイルド SL56660 81年14週 16 NAND 13個

CRAY-1 SUPERCOMPUTER MEMORY BOARDの表面
対称に配置されたデバイスが美しい。中央の白いデバイスは、フェアチャイルドのF10231。おそらくはHihg Speed F/Fと思われる。
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CRAY-1 SUPERCOMPUTER MEMORY BOARDの裏面
ECL LOGIC BOARDの裏面には、多数のデバイスが実装されていたが、MEMORY BOARDは簡素なものだ。
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MEMORY BOARD表面に実装されたデバイス
フェアチャイルドのF10231と富士通の10470、モトローラのMC10161Fが見える。
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MEMORY BOARDのコネクタ面 #1
こちらの面は、筐体外側に向いている部分。アクリルの断面に、手書きのシリアル番号(#150/#300)が記載されている。
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MEMORY BOARDのコネクタ面 #2
この面は、円柱筐体内部に向けて配置される。
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MEMORY BOARDの表面の実装状況
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ECL LOGIC BOARDの証明書
Cole氏直筆のサインとシリアル番号が手書きされた証明書(Certificate of Authenticity)。これはECL LOGIC BOARDのもの。
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基板に同梱されてきた説明書
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