■NECが1982年11月に発売した初の16ビットパーソナルコンピュータ、 PC−9801(初代機)のマザーボード。現在のマザーボードと異なり、汎用 TTL−ICがびっしりと敷き詰められた異様な基板である。基板の大きさは、 横47×縦37cm。基板上は、シルク印刷で横方向に1〜16まで16区画、 縦方向にA〜Xまで24区画に区切られている。なお、本ボードの製造年月は 1983年の初旬頃と思われる。 ■基板上辺に並んだコネクタは、左側より順に8インチ外付けFDDコネクタ、 DIP−SW2、DIP−SW1、プリンタコネクタ、RS−232Cコネクタ 5インチ外付けFDDコネクタ、B/Wモニタコネクタ、Colorモニタコネ クタとなっている。基板右下にはキーボードコネクタ、左下にはリセットスイッ チが搭載される。 ■CPUはNEC製μPD8086D(5MHz)を搭載。当時16ビットのパー ソナルコンピュータとして発売されていたIBM PCは、バス幅8ビットの 8088を採用していたことを考えると、性能的には優位に立っていた。 ■コプロセッサはオプションで搭載可能。本マザーボードには、intelの 8087が搭載されている。 ■日本製16ビット機であるにもかかわらず、初代9801には漢字ROMが未搭 載であり、オプションとして購入しないと漢字が表示できなかった。後続機種の PC−9801Eからは、第一水準漢字ROMが内蔵されるようになる。本体だ け購入したのでは漢字を表示できなかったという点は、今となっては若干奇異に 感じられる。 ■以下に、NEC PC−9801(初代機)本体のスペックを示す。
型 番 | NEC PC-9801(初代機) |
発売年月日 | 1982 年 11 月 |
CPU | NEC μPD8086(5MHz) |
Main Memory | 128KB(Max 640KB まで拡張可能) |
搭載 ROM | N88-BASIC(86) ROM、モニタ ROM(96KB) |
内蔵 FDD I/F | 5.25 インチ 320KB FD I/F 8 インチ 1MB FD I/F |
内蔵 HDD I/F | 無し(拡張ボードで対応) |
グラフィックス仕様 | 640 × 400 dot/8 Colors |
VRAM | 96 KB 搭載 |
搭載I/F | 1MB FDD、320KB FDD、セントロニクスパラレル RS-232C、B/W CRT、デジタル Color CRT |
価格 | 298,000 円 |
■IBM互換機のマザーボードとは全く異なる外観を持つ。しかし使用されてい るLSIを見ると、IBM PCと似た構造になっていることがわかる。 ■IBM互換機とアーキテクチャ上大きく異なる点は、グラフィックスをオンボ ードで搭載していること。現在のマザーボードでは、チップセット内にビデオ 機能を内蔵した製品は珍しくないが、IBM互換機では基本的にビデオは拡張 カードで提供していた。当時、MDAやCGAといった低解像度のグラフィッ クスが一般的な中で、専用のGDC(Grahipc Display Co ntroller:μPD7220)を搭載し、640×400/8色を実現 していたPC−9801は、驚異的なスペックと言えた。 ■バスはCバスと呼ばれる内部バス直結タイプのもの。これをドーターボードを 介して5スロット分搭載している。HDDは搭載されていない。IBM PC /XTがST−506タイプの10MB/20MBのHDDを搭載していたこ とを考えると、この点は若干非力であった。基本的に外部記憶はFDで処理す るマシンとして設計されている。
■本ボードに使用されているLSIは、以下の通り。
μPD8086D | NEC | 82年51週 | CPU |
i8087 | intel | − | FPU |
μPD8255AC-5 | NEC | 82年49週 | プログラマブルI/O(3個使用) |
i8237A | intel | − | DMAコントローラ |
μPD8251AC | NEC | 82年49週 | シリアルコントローラ(2個使用) |
μPD8259 | NEC | 82年50週 | 割り込みコントローラ(2個カスケード接続) |
μPD765AC | NEC | 82年49週 | FDDコントローラ |
μPD7220D | NEC | 83年06週 | GDC |
μPD2364EC | NEC | 83年02週 | キャラクタジェネレータROM |
μPD8288D | NEC | 82年40週 | バスコントローラ |
μPD52611C | NEC | 83年05週 | − |
μPD4016C-2 | NEC | 83年02週 | − |
μPD8264 | NEC | − | − |
HM6116LP-3 | 日立 | − | 16Kbit SRAM |
TMS4164-20 | TI | − | 64Kbit DRAM(18個使用) |
■初代PC−9801のDIP−SW設定を以下に示す。
1-1 | 400 LINE モニタ | 200 LINE モニタ |
1-2 | グラフィック画面1のみを表示 | ---------- |
1-3 | グラフィック画面2のみを表示 | ---------- |
1-4 | グラフィック画面3のみを表示 | ---------- |
1-5 | テキスト画面のみを表示 | ---------- |
1-6 | 全てを表示 | ---------- |
1-7 | 本体のタイマを使用する | 使用しない |
1-8 | モデムからのレシーブタイミングを使用する | 使用しない |
1-9 | 本体のタイマを使用する | 使用しない |
1-10 | モデムからのセンドタイミング2を使用する | 使用しない |
2-1 | ---------- | 常時OFF |
2-2 | ターミナルモード | BASICモード |
2-3 | 80(文字/行)テキスト表示 | 40(文字/行)テキスト表示 |
2-4 | 25(行/画面)テキスト表示 | 20(行/画面)テキスト表示 |
2-5 | メモリスイッチ保持 | メモリスイッチ解放 |
2-6 | ---------- | 常時OFF |
2-7 | ---------- | 常時OFF |
カスケード接続された 割り込みコントローラ、μPD8259AC |
DMAコントローラ(i8237)、I/O(μPD8255AC) シリアルコントローラ(μPD8251AC) |
16KB SRAM(HM6116)とモニタROM(μPD4016) |
メインメモリ(64KBit DRAM)のアップ TMS4164をパリティ含め総計18個搭載 |
バスコントローラ(μPD8288) |
モニタディスプレイ接続端子部分のアップ 右側がディジタルカラー出力、左側がモノクロ出力コネクタ |
8インチFDDユニット接続コネクタ部分のアップ |
左側がプリンタコネクタ 右側がRS−232Cコネクタ |
■コメント PC−9801が発売された当時、筆者は大学生でした。当時、周囲のマイコ ン学生連中はこぞってPC−8001でゲームを楽しんでいました。そんな中 PC−8801が登場し、一部のリッチな人はそちらへ乗り換えます。その後 すぐに16ビット機であるPC−9801が発売されました。N88BASI Cで組まれたソフトが動作し、周辺機器も88のリソースが流用できる等、P C−9801は互換性の高いマシンでした。しかし、いわゆるゲーマー御用達 としてのPC98は、16色表示が可能となったVM以降の製品であり、そう いった意味では、初代PC98の時代のグラフィックスは過渡的な仕様となっ ていました。 そうはいっても、専用GDCを用いた640×400ドット/8色解像度のグ ラフィック画面は当時としては驚異的で、最高のスペックを誇っていたもので す。しかし、性能面では突出していたグラフィックをマザーボードに組み込ん でしまったため、その後の急激なハードウエアの進化に柔軟に対応できなかっ たというのは、有名な話となっています。最初はショボいMDAやCGAでも グラフィック機能を分離して拡張できるようにしたIBMのマシンは、やはり 先見性があったと言えるでしょう。 こうして初代PC−9801の基板を眺めていると、当然のことではあります が初代IBM PCに非常に良く似ています。まあ、CPUに同じintel の8086系を用い、OSにMS−DOSを採用していたマシンでしたので、 当然といえば当然でしょう。ASICを使用しておらず、TTLとLSIとで 構成されたボードは、そのままPCアーキテクチャの教科書にもなるほどわか りやすい構成です。標準ではたった128KBしか搭載されていないメインメ モリなど、良くこれで動いたものだと思わざるを得ません。当時、このPC− 9801に8インチ1MBのFDDを接続して使うというのは、それこそ夢の ような環境なのでした。
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