2003年秋号:濃い系 Psion の世界 #4
Early-Psionの系譜:Organizer-I、IIの世界(前編)



 前号では、Psion製のDOSマシンであるMC600を紹介したが、今号は、さらに時代を遡り、Psion製PDAの原点とも言えるOrganiserシリーズについて二回にわたり取り上げることとした。1984年から1988年にかけて登場した四機種のPDAである。パームトップPCの嚆矢とも言えるATARI PortfolioやPoqetPCが登場したのが1989年であることを考えると、これらのマシンは、PDA開闢時代とでも呼ぶべき「太古」の製品だと言える。

 とりわけ初代機のPsion The Organiserは、記念すべきPsion最初のPDAとしてコレクターズアイテム化しており、入手するのに苦労したものだ。「The」 Organiserの名称が示すように、初めてのPDAを市場投入するにあたってのPsion社の気込みが込められた製品だ。シックな黒い筐体と整然と並べられた小さなボタンキー、液晶周りの渋いシルバーの外装に施された赤いラインといった凝ったデザインには、大英帝国のスノッブで貴族的な気風が感じ取れるなどと言うと、筆者の思い入れが過ぎるだろうか。

 後継機のOrganiser-IIは、いかにも量産品的かつ合理的なデザインとなってしまったが、これはこれで興味深い製品であった。特筆すべきは、ユーザーが独自のプログラムを開発することを可能とするOPL(Organiser Programming Language)が内蔵されたことで、極小日本語エディタのHaikuPadもこの言語を利用して開発されている。残念ながら、記事執筆時には、このエディタのプロトタイプが作成されている段階で、最終版を紹介できなかったのだが...。

 今回の前フリは、PC-9801のエミュレータについて取り上げた。DOS/Vの黒船が来襲するまでは、「国民機」として強大なシェアを誇っていたマシンである。今となっては、見る影もないが、当時は、このマシン用の多くの優れたビジネスツールやゲームソフトが開発されていたものだ。幸い優れたエミュレータソフトにより、それらのほとんどは今でも最新のWindowsマシンで利用することが可能だ。実機を動態保存しなくても、これらのソフトウェアで昔を偲ぶことができるというのは、便利な時代になったものである。






Psion The Organiserのカタログ
The Organiserの実物大カタログの表紙と裏表紙。カタログ内部にはポケットが設けられ、各機能を説明した短冊シートが入っている。

Psion The Organiserのパッケージ
元箱、取説一式が揃ったデッドストック。本体、8K DATA Pack、UTILITY Pack、ユーザーズマニュアル、保証書、UTILITY Packのマニュアル、補足資料(2枚)という構成。

Psion The Organiser#1
保護カバーを開けたところ。保護カバーは簡単に取り外しができる。マットな黒で塗装された表面に小さなキーボタンが規則正しく並ぶデザインは、さすが大英帝国製。

Psion The Organiser#2
保護カバーを外したところ。ボタンタイプのキーが6x6のマトリックス状に整然と並ぶ。

Psion The Organiser裏面
DATA Pack用スロットが2つ設けられている。本体底面には、006P電池を収める電池室がある。2個並んだPackは、左がDATA用メモリ、右がUtility用プログラムROM。

DATA Pack
DATA Packの形状は、The Organiser、Organiser II全シリーズで共通だ。ケースの丸い穴は、EPROM紫外線消去用の開口。Pack内部のデバイスは、2732、2764といった汎用EPROMおよび若干のロジック回路。

The Organiserの液晶画面
電源投入直後の画面。16文字x1行のLCD画面に時計が表示される。

Calcアプリケーションの起動画面
UTILITY Packがあれば科学技術計算も可能。このように数式を入力して最後にEXECUTEボタンを押すと解答が表示される。

Organiser-IIのカタログ(表面)
CM、XP、LZ(LZ64)の全3機種をまとめて紹介したOrganiserーIIの総合カタログ。内蔵アプリの紹介の他に、メモリパック、プログラムパック、PCとのリンクソフト、専用プリンタ等も掲載されている。

Organiser-IIのカタログ(裏面)
裏面には、CM、XP、LZ(LZ64)の機能比較一覧表が掲載されている。

Organiser-IIファミリ
左からCM、XP、LZ64。LZ64は、LZの内蔵メモリを32K→64Kにアップグレードしたバージョン。各モデルの外見上の相違は、液晶サイズと表面に記載されたモデル名称のみ。

各モデルの液晶画面
上段左がThe Organiser、右がCM。下段左がXP、右がLZ64。

Organiser-II表面
基本的なレイアウトは、The Organiser(初代機)と同一。ただし、キーボードの形状と本体の塗装色が異なる。キーボードは初代機よりも押しやすいが、ストイックなデザインの魅力は薄れてしまった。

Organiser-II裏面
2つのDATA Packスロットと本体底面の電池室という初代機と同じデザイン。

専用の拡張スロット
初代機には無かった機能として、本体上部に専用の拡張スロットが設けられた。通常はスライド式カバーで覆われている。

Model XPの電源投入時の画面
Model CMとXPは、16文字x2行表示となっている。最初に表示されるのが、デフォルトのメニュー画面。全部で12個あり、カーソルキーで選択する。

Model LZ64の電源投入時の画面
液晶表示が拡張されたModel LZ64の起動画面。20文字x4行と大幅に改善されている。

Information画面(Model XP)
INFOメニューを選択すると、内蔵メモリとDATA Packの使用量が横方向の自動スクロールで表示される。この機能はかなり便利だ。

Model XPの分解#1
このように内部は、2枚の基板で構成されている。下がメイン基板でCPUやROM、RAMが搭載されている。

Model XPの分解#2
CPUは日立製HD6303XF。その上に配置されたLSIは、LCDコントローラとキャラクタジェネレータ。その他に32KBのOTP EPROM、32KBのRAMなどが搭載されている。

LZ64の液晶上の漢字表示#1
柴隠上人 稀瑠冥閭守 (Kerberos)氏が開発中のOrganiser-II用日本語エディタ。単漢字変換で第一水準の漢字の入力が可能。

LZ64の液晶上の漢字表示#2
このマシンに漢字フォントを表示するには、空前絶後のテクニックを用いる必要がある。漢字が左右に分割されているのはその一端で、5x8ピクセルのカスタムフォントパタン領域二つで漢字一文字を表現しているのだ。

Model XP用の日本語エディタ#1
記事本文では紹介できなかったModel XP用の極小日本語エディタ「HaikuPad」。ハードウェア上の制約から、一度に全角4文字しか表示することができないが、単漢字変換による全角50文字までの日本語テキストの作成が可能。

Model XP用の日本語エディタ#2
HaikuPadの起動画面。現在のバージョンは、V5.2である。漢字フォントROM非搭載、内蔵メモリ32KBのマシン上で、JIS第一水準のソフトフォントを用いた日本語入力を実現している。ここまで来ると不条理を通り越して、常人には理解不能な離れ業だ。

T98-NEXTの起動画面
Windows XP上でも正常に動作する。PC-9801 DOS版一太郎Ver4.3を起動した画面。

松 Ver5のメニュー画面
管理工学研究所の「松 Ver5」のメニュー画面。一太郎と双璧をなしていた日本語ワープロソフトの代表作。

エコロジーII
PC98用ファイラーソフトの定番、「エコロジーII」。

Windows 1.03
Windows XPのデスクトップ上にPC-9801版Windows 1.0を表示させる。

Windows 3.0
今見ると、なんだか懐かしいと言うか郷愁を感じると言うか...。

TAKALITH
筆者が、落ち物ゲームの傑作と信じて疑わない「TAKALITH」。当時のCPUパワーで良くここまで面白いゲームを開発したものだ。やはりゲームはグラフィックスではなく、発想である。

Prince of Persia
PC-9801版の「Prince of Persia」。IBM版と比較すると、サウンド/グラフィックス共に凝っていた。このようにDOS用ゲームもプロテクトさえなければ動作するものが多い。