■■■ Casio AS−A (1969年5月)■■■

写真1:Casio AS-A 本体外観 #1


写真2:Casio AS−A 本体外観 #2
■Casio AS−A                       
                                   
CasioのAS−Aは、1969年5月にデビューした。その横長の独特な
プロポーションが「そろばん」を連想させることから、当時は電子ソロバンと
も呼ばれていたようである。それまでは、17インチモニタ程度の大きさがあ
った電卓も、このAS−Aの登場により、より小型化し可搬性が向上した。持
ち運びに便利なようにと、この製品には専用のアタッシェケースも用意されて
いた。                                

写真1は、専用のアタッシェケースに収まったAS−A。1969年当時は、
電卓も高価であったため、ケースも非常にしっかりとしたものとなっている。
内部はビロード張りとなっており、見るからに高そうだ。なお、ケースには電
卓本体と専用の電源コードが収まるようになっている。またケース表面には、
CASIOの旧ロゴマークが入る。                   

写真2は、AS−Aの外観。電卓なのになぜか表面には木目調のパネルが貼ら
れているところなど、工芸品的な趣すら感じられる。持ち運びができるとは言
っても、本体はそれなりに大きい。幅33cm×奥行13cm×高さ10cm
といったところだ。本体上面の左側には電源スイッチが、また右側には数値キ
ーと演算キーが配置されている。キーは四則演算を行なう上での必要最小限し
か搭載されていない。                         
写真3:Casio AS-A 本体裏面


写真4:Casio AS-A 本体裏面銘版アップ


                                   
写真3は、AS−Aの裏面を撮影したもの。放熱のために設けられたスリット
の隙間からICが実装された内部基板が見え、部品がかなりキツキツに実装さ
れていることが伺われる。                        

写真4は、本体裏面に添付されている銘版のアップ。CASIOの旧ロゴマー
クがついており、シリアル番号は618570R、品質管理番号はQ1082
14となっていた。                          
写真5:Casio AS-A 本体内部全景


写真6:Casio AS-A 内部基板のアップ #1


写真7:Casio AS-A 内部基板のアップ #2
                                   
写真5は、AS−Aのケースを開けたところ。上部がキーボード部分で、下部
が基板部分である。左側には表示用の12桁ニキシー管が整然と並んでいる。
メイン基板は一見1枚のみのように見えるが、実はサンドイッチ状に2枚重ね
て格納されている。この電卓では、まだLSIの使用による集積化が行なわれ
ておらず、使用されているロジックICも16ピン程度の小さいもの(MSI
)が多い。なおキーボード部分のケース裏面には、「S49 7.7」の印刷
が見られ、基板上には「KYOEI」の文字とロゴマークがシルク印刷されて
いた。配線コードはフラットケーブルを用いず、通常の配線コードをテグスで
束ねて使っている。コードの束ね方ひとつを取ってみても、職人の技とこだわ
りを感じることができる。                       

写真6は、ニキシー管表示とそのドライバ部分のアップ。ドライバ段に使用さ
れているトランジスタは、日立製2SA617と2SC284であった。集積
化が進んでいないため、表示ドライバ部分はディスクリート部品で構成されて
おり、その部品数たるや半端なものではない。なお、表示ドライバ部分は、本
モデルの後継機種であるAS−Bからは大幅に集積化されている。     

写真7は、ロジック部分基板のアップ。2枚重ねとなっている基板の上部分を
拡大して撮影したもの。ICには下記のものが見受けられた。       

 NEC製 μPD13C、μPD101C               
 日立製  HD3106、HD310、HD713M          

HD713Mの外見は、メタルキャンのオペアンプに良く似ている。基板上に
は、こういったICの他にも数多くの抵抗やコンデンサ、ダイオードが整然と
搭載されており、その部品点数たるや想像を絶するものがある。      
写真8:Casio AS−A キーボード裏面部分のアップ


写真9:Casio AS-A 本体背面


写真10:Casio AS-A と AS-B
                                   
写真8は、AS−Aのキーボード部分の裏側をアップで撮影したもの。初期の
CASIOの電卓に良く見られる、磁力によるリレー式スイッチが使用されて
いる。基板上を良く見ると、金属接点が密封された細いガラス管が見える。こ
れがリレースイッチである。各キーの下には磁石が付いており、キーを押し下
げるとガラス管リレーの横に磁石が位置するように設計されている。ガラス管
の中に封印された金属接点は通常離れているのだが、キーが押されると磁力に
よって接点が接触し、回路が導通する。コスト的には極めて高くつくが、劣化
がほとんど無い精緻な構造であると言えるであろう。静かな場所でキーを押し
てみると、「カチッ」っという小さい音が聞こえるが、これは接点が閉じた時
に発生している音なのである。                     

写真9はAS−A本体の背面写真。電源コネクタが見える。電源コネクタは特
殊仕様の3端子タイプであるが、真中の端子がFGであり、実際AC100V
を印加するのは左右の2つだけである。                 

写真10は、AS−Aとその後継機種であるAS−Bを並べて撮影したもの。
手前のAS−Bは、AS−Aと比較して厚さが2cm程度薄くなり、より平べ
ったい感じになった。また、キーの数も若干増加している。AS−Bが発売さ
れたのは、AS−Aの翌年、1970年11月のことである。       

このAS−Aは残念ながら不動である。電源を入れてもニキシー管が点灯しな
いのだ。FUSEは正常切れてないしし基板上の電源電圧も正常に印加されて
いることから、おそらくは表示ドライバICの一部に異常があると思われるの
だが、それにしても残念でならない。ダメものとCASIOにメールで今でも
修理が可能かどうかを質問してみたのだが、回答はまだ来ない。しかし、32
年前の製品であるからして、部品の在庫もとっくの昔に無くなっており、修理
しろという方が無理と言えるであろう。                 

この電卓は、専用LSIの普及による過酷な価格競争が始まる前の製品であっ
た。基板を見ていると、回路設計者の執念ともいったものを感じ取ることがで
きる。回路設計の良し悪しがストレートに製品の機能とコストと大きさに跳ね
返ってきた時代、まさに職人のノウハウがめいっぱ詰まった箱が、このAS−
Aであったと言っても過言ではあるまい。                

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